借りぐらし(小説版サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年12月号その2のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/1057835

 僕は、とある民家の軒先を借りて暮らしている。許可は取ってないから、バレるとかなり危ないけど、多分バレることはないだろう。
 なぜなら……
 周囲を見渡す。
 天までそびえるかのような壁、僕の身の丈を遥かに上回る、巨大な靴。
 そう、僕はこの家の主とは比べ物にならないほど小さい。つまり、気づかれる可能性は非常に小さいというわけだ。
 もっとも、小さいからこその危険も非常に多いのだが……。

 僕の背後から、カサカサという音ともに嫌な気配が忍び寄る。
 そう、今まさに巨大クモに襲われている最中だ!!

「どこか、隠れられる場所は!」

 巨大昆虫に捕食されないよう、必死に逃げる。
 足を止めることなく周囲を見渡すが、扉はどこも閉まっており、隠れることは無↑あしそうに思える。
 だが、一個だけ開いている扉があった。

「あそこっ!」

 逃げ込んだ先、そこにはこの家の例にもれず、天までそびえる純白のイス型オブジェクトがあった。
 だが、円柱形のそれに隠れるのは少し厳しそうだ。
 代わりに隠れられそうなものはというと、ある。
 巨大な白いロールペーパーの山。そこの山と山の隙間に隠れるなら、逃れられるかもしれない。

「蜘蛛が気づかなければいいんだけど……おや?」

 少しだけ開いていた扉が、完全に開かれる。そして、閉じる。
 入ってきたのはある少女。もちろん、彼女も僕と比べれば巨人だ。彼女はこの家で何度か見かける、おそらく家族の娘といったところだろうか。
 ウェーブの黒髪を肩まで垂らした少女は、急いで白いオブジェクト……洋式トイレに腰掛ける。

「うー、漏れちゃう漏れちゃう!」

 グシャリ、そのような音が聞こえた。
 僕にとって幸運だったのは、その音の主が僕ではなかったことだ。
 
「あれ、なにか踏んじゃった?」

 少女は、その巨大な薄肌色の足で蜘蛛を踏み潰したのだ。
 
「やだ、裸足で蜘蛛踏んじゃった!!」

「め、目の前で潰された……少し間違ってたら僕があんな目になっていたのか」

 恐怖体験。しかし、このような悪運は僕にとっては日常茶飯事だ。むしろ、蜘蛛の脅威を排除してもらえたことを幸運に受け止めるべきだろう。

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