ヘマをしたニューロン・ハッカー(サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年2月号のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/1130347

「当然だろう。誰だって、死ぬのは怖いさ」

 穏やかな、くすぐるような女性の声。余裕を見せつけるその声の主は、俺に刑罰を告げる。

「安心してください。死刑ではありませんよ」

「なら、一体なにを……?」

「ちょうど、私たちは新しいプロジェクトを進めています。貴方も聞いたことがある……いや、ちょうど先程手に入れたものがあるでしょう?」

 俺が手に入れたものといえば……。

「対抗勢力から依頼されたのでしょう? 我が社の計画する“ニューロン・ヒューマン・プロジェクト”……NHPの機密入手を」

「バレバレだな。自信がなくなるぜ」

「気にしなくていいですよ。それに、手に入れられた情報はそのまま差し上げましょう」

 目の前に、NHPの情報が記されたファイルが配置、展開される。

「どういうことだ?」

「貴方には、NHPの中でもある分野のテスターをやってもらいたい、ということです。詳しくは、読めばわかるでしょう」

 NHPのファイルから、俺の意識に情報が送り込まれる。そこで得た情報は、驚くべきものだった。

「なんだ、これは……!」

 それは、現在使われているニューロン・ネットワーク内に広大な仮想空間を作り出し、更には実際に生活と仕事、睡眠などまでを再現するというもの。
 そして、ニューロン・ヒューマンとは現実の身体を保管、あるいは放棄してその仮想空間に完全移住する人間のことだった。

「そんなこと、できるわけがないだろう!」

「いいえ、できています。現に……」

 目の前に光の粒子が降り注ぎ、人間の少女の形を成していく。
 金髪をロングにした、18歳ほどの少女。果たしてそれが現実と同じなのかまではわからないが。

「私は、ニューロン・ヒューマン第一号なのですから。もっとも、現実の身体はまだ捨てていませんが」

「……信じられないな。アバターかなにかじゃないのか?」

「ええ、信じなくても構いません。アバターというのも、意味だけならあっていますからね」

 余裕そうな表情を見せる少女。そして、彼女はリアルと見間違えるほどに、精密に再現されたその口で告げる。

「貴方にやってもらいたいこととは、ニューロン・ヒューマンをメンテナンスするプログラムのテストです」

「メンテナンスのプログラム……?」

「ええ。電脳世界に再現された人間といっても、定期的なメンテナンスを怠れば不調を起こします。現実の病気や怪我のようなものですね」

 それは、納得がいく。突飛な話をされている最中だが、一般のプログラムもメンテナンスがなければバグや外部からのウィルスの脅威に晒されてしまうからだ。

「そのメンテナンスってのは、どうすればいい」

「貴方自身はなにもしなくて構いません。貴方の意識をそのプログラムに移植し、ただ被験者の中で実行(ラン)すればいいだけですから」

「移植? 被験者?」

 意識の移植とは、難しくはあるが実現済みの技術だ。そもそも現在進行系で俺が使っているニューロン・ネットワークも人間の意識を電脳世界に移植することで実現しているものだからだ。
 だが、被験者の中とはどういうことだろうか。

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