眠り姫の起こし方(サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年10月号その2のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/936421

 トム……偶然にも、呪いの名と同じ名前の俺は、『親指トムの呪い』で身長がわずか0.1mmほどになっていた。
 ここまで小さくなると昆虫すら超巨大な怪物で、それに立ち向かうなら「叙情的」で呪いが解けるだろう、なんてこともなく。ただ目的もぼんやりしたまま歩き続けるしかなかった。
 幸い、呪いの影響だろうか身体能力は飛躍的に向上しているため、並大抵の脅威はなんとか退けられている。あるいは、それこそが『叙情的』ではない扱いなのかもしれないが。
「ここは……城の廃墟? こんなところまで来ちゃったのか」
 森の中を歩いていると、いつの日か教科書で見た気がする古城へと辿り着く。
 なにかの手がかりやきっかけになれば、と内部を探索すると、そこは廃墟とは思えないほど絢爛な内装で。まるで今でも人が働いているかのような……。
 そう、物思いにふけりながら歩いていると、物陰に人の姿が。
「わ! ……なんだ、人形か」
 それは、近世に働いていたメイドのような姿の少女の人形。しかし、まるで今でも動き出しそうなそれは、たしかに俺の心臓を跳ね上げさせた。
 今の俺は小さな体なだけあって、動き出す人間なんて脅威でしかない。
「おや、お客様とは珍しいですね。驚かせたようで申し訳ありません」
 ……頭上から、声が聞こえる。
 見上げると、天幕となっているモノクロのロングスカートの更にその上。フリルのカチューシャを付けた少女人形が、たしかに喋っていた。
「に、人間……? こんな場所に人がいるのか?」
「それはこちらのセリフです。私は今からはるか昔に製造されたゴーレムです」
「ゴーレム……ロボットのようなものか。そんなものが実在したとは……いや、こんな奇天烈な呪いがあるのだから今更だな」
 昔に作られた人形が、自らの製造を「はるか昔」と理解しているのは、内部の仕掛けが働いているのだろう。歯車の時計とか。
「それで、貴方はここにどのような目的で?」
「あ、ああ。すまない。目的と言っても特にないんだが……強いて言えば、冒険だろうか」
「見たところ成人済みのようですが、随分とロマンチックなことを仰るのですね」
 たしかに、事情を知らないならそうかもしれない……。
「実際、藁にもすがる思いなんだ。そういう、物語の主人公みたいな冒険をしないと解決しない呪いにかかっていてな」
「なるほど、私の時代から遥か未来だと思っていましたが、まだそのような呪いがあるのですね」
「それで、なにかこの城の伝説みたいなのって知らないか?」
「伝説、ではないですが。試しに私の主を起こしてみませんか?」
 起こす? なにか眠っているのだろうか。まさか、ドラゴンだなんて言わないよな……。
「この城には、とある幼い少女が魔女の呪いで姿が変わることなく眠り続けています」
「その女の子を起こしてみせろ、と」
「はい。私の時代では結局手がかりが見つからないまま、人々に忘れられてこの時代まで続いてしまいました。しかし、今の時代ならなにかわかるのではないでしょうか」
「わかると言っても……眠り姫を起こすだなんて、童話の話しか知らないぞ」
「童話……では、それを試してくれませんか?」
「はい?」

 それから、巨大メイドゴーレムの少女は問答無用で俺を、幼女の眠る寝室へと連れて行った。
 樹脂でできているのだろうか、ゴーレムという印象からは予想外な柔らかい手のひらに包まれた俺はその幼女と対面する。
「メアリー様。失礼します」
 俺の目の前には、メアリーと呼ばれた幼い少女がベッドの上で眠っていた。
 金髪をウェーブのようにたなびかせて眠り続ける、7歳ほどの幼い少女。その姿はまさに童話の眠り姫に違いない。
「俺が知ってる眠り姫は、王子の口づけで目を覚ましたんだが……」
「では、それをお願いします」
 お願いしますって……と、抗議しようにも巨大なメイドには逆らえず。どうしようもないまま、俺は幼きメアリーの唇の上へと乗せられてしまう。
 背後からは、巨大な2つの洞窟が暴風を発生させ続ける。0.1mmのこの体では、鼻から発生する呼吸ですら大災害だ。
「それじゃ、失礼しますよ……っと」
 メアリーの巨大な唇に伏せ、思いっきり顔を突きつける。こんなことで目が覚めるのだろうか……そう疑問に思いながらも一応の役目を終えて油断したのが悪かったのだろう。
 すぅ……。
「う、うわああ!!」
 背後で絶えず発生していた呼吸に巻き込まれ、俺はメアリーの鼻の中へと吸い込まれてしまう。そして、奥へ奥へと運び込まれると……。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です