幽閉の罠(サンプル)

fantiaの100円プラン作品2021年10月号のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。

https://fantia.jp/posts/946794

「ううん、そっちも心配だけど……っこ」
 ダンジョンは事前情報から、ある程度その規模が推測される。例えば、俺達が挑戦しているこの洞窟は下級の魔物しか出てこないため規模も小さく、計算通りならそろそろ最奥に辿り着くはずである。
 カレンもその想定で呪文を使っており、呪文の使用回数的に考えてゴールにたどり着けなければ困ってしまう。
 なにか、カレンが最後に口にしていたように聞こえたが、やはり彼女も心配なのだろう。
「あっ、あれって!」
「おっと、ようやく見つけたな」
 だが、心配はもうおしまい。目当ての宝箱は発見できたようだ。
 赤い塗料で塗られた四角い箱。ダンジョンに共通して見られる、財宝の保管庫だ。
「カレンはそこで待ってな。俺が確認してくる」
 あいにくこのパーティにならず者はいない。だから、せめて比較的手先が器用な戦士である俺が罠を解除する役割を担っているのだ。
「さて、罠には気をつけて……」
 だが、焦っていたのか。あるいはやはり本職のならず者ほどの注意力は持てなかったのか。俺は呆気なく罠に引っかかってしまった。
「しまっ!」
「ヨシュア!」
 俺の視界は光に包まれ、身体を通り抜ける気流も変化した。どうやら、テレポーター系の罠に引っかかったようだが……。
 この手の罠は厄介だ。壁の中に飛ばされていない分マシかもしれないが、カレンとの合流を急がなければ、未発見の魔物にお互い各個撃破されてしまう恐れがある。
「まず、ここはどこだ……」
 松明を掲げ、周囲を見渡す。透明な壁に包まれていることがわかり、その奥には巨大な金塊が積まれている。
「……まさか、ミニマムの罠との複合で宝箱の中にあるなにかに飛ばされたのか?」
 それは、厄介であると同時に不幸中の幸いとも言えるかもしれない。ミニマムの罠は引っかかった人物を極小サイズに縮める危険な罠で、最悪仲間の手によって無意識に殺される可能性すらある。
 だが、俺はおそらく宝箱の中に飛ばされた。だから、カレンに見つけてもらえる可能性は比較的高い。
 あとはカレンに守ってもらいながら、街の教会でミニマムを治してもらえば大丈夫だろう。

「ヨシュア……どこ?」
 カレンのか細い、不安そうな声が聞こえてくる。
「カレン、ここだ!」
「ヨシュア……もしかして、テレポーターで飛ばされちゃったの?」
 聡明なカレンは、突然消えた俺がテレポーターの罠に引っかかったのだと気づいてくれた。ここまでは予定通りだ。
「……先に宝箱の中身を回収して、すぐに探さなきゃ」
 カレンは焦った様子で、箱の中にある金貨を回収していく。そして、俺の入った透明な筒を手に持ち一言。
「なんだろう、この筒……」
 疑問符を浮かべ、また一言。
「うう、おしっこ……漏れちゃいそう」
 俺の入った筒を手に持ちながら、それを口にする。恥ずかしそうではあるが、普段そのような下の話をしない彼女がわざわざ言葉にするということは、まだ俺の存在には気づいていないということだろう。
 気づいていないとはいえ、すぐ側に俺がいる状態でカレンが小便をすることになるのだろうか。それは、少々申し訳ないな……。
「この筒、何も入ってなさそうだし……これにしちゃおう」
 だが、カレンは俺が思っていたよりも大胆だったようで……ちょっと待ってくれ、この筒にするって!? 俺がいるのにか!!
「ま、待ってくれ、やめてくれ!!」
 必死に叫び声を上げるが、聞き届けてくれず。あるいは、尿意に迫られて集中力が失われているのかもしれない。

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