小さなものは子供から離しましょう(サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年9月号その2のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/917045

 ……邪推しすぎてしまっただろうか。
 よく見ると、エリザの影に隠れてより小さな少女がそこにはいた。
 金髪、ツインテール。白いワンピースを着た少女エリザ。今は少しふてくされている。
 そして、その影にいた少女は黒髪でショートヘアの、大人しそうな雰囲気をした少女、サリー。
 サリーはエリザよりも更に幼く、1学年下だがエリザとサリーはよく一緒にいることが多い。
 だからといって、サリーがエリザのいたずらを手助けすることもないのだから、今回は本当に善意だったのだろう。
「……ごめんね、疑ってしまって」
 そう言いながら、俺は本棚の高いところにある書物を手に取る。これは、昆虫図鑑だろうか。
「大丈夫です。先生」
 サリーに図鑑を手渡す俺を見るエリザの表情は、やけに不気味で……。
「“ミニマム”」
 意識を失う寸前に聞こえた言葉は、そのような呟きだっただろうか。

「う、ここ……は?」
 気がつくと俺は、光のない暗闇の中にいた。
「しまった、油断したな……」
 現在の状況はわからないが、おそらく……というか十中八九エリザのいたずらに巻き込まれたのだろう。
 光が差し込まないが、周囲は動き回れる程度には開けていて、だがジメッとした湿気とカビ臭さ。そして木の匂いが特徴的だ。
「とりあえず、明かりを灯すか……」
 俺は魔術師なら誰でも扱える初級呪文、“ライト”を唱える。これは手のひらから周囲数mを灯す程度の光源を作り出すだけの呪文だが、魔力の消耗も少ない。
 この程度の呪文行使なら、万が一助けが及ばない空間だったとしても魔力不足でなにもできなくなる、という心配は減るだろう。
「……巨大な積み木?」
 俺がこの空間に抱いた第一印象は、おもちゃ箱の中だった。
 白樺の木材が様々な形に加工された物体。それが巨大なスケールで周囲を埋めていたのだ。
「そういえば最後に“ミニマム”なんて聞こえたな……」
 “ミニマム”は物体を縮小させる、高位の変成呪文。エリザはどこからかそれを修得し、俺を実験台にしてしまったのだ。
「積み木の大きさからして、俺は1mmないんじゃないか?」
 縮小させる呪文と言っても、第1階梯呪文の“リデュース・パースン”程度ならそこまで小さくはならない。
 だが、術者の魔力で際限なく小さくできる“ミニマム”は理論上、エリザの思うままに小さくできてしまうのだ。
 おおよそ、どこまで自分の魔力で人間を小さくできるか試したかったというところだろう。巻き込まれる側はたまったものじゃないが。
「だけど、実験が目的なら安心だな。まさか“パーマネンシィ”までかけられていはいないだろうし」
 呪文を永続化させる“パーマネンシィ”。それがよりにもよって“ミニマム”と組み合わせられていたらと思うと怖気が走る。
「時間経過で解除されるなら、脱出さえすれば解決だな」
 “ミニマム”と対をなす、巨大化呪文“ヒュージ”。それが使えれば簡単だったのだが……。
 いや、俺の魔力ではエリザに叶わず、呪文効果の相殺には至らなかったと思うが。
 それができないなら仕方がない。この手の呪文は安全でひらけた場所で時間を待てば自然に解除されるものだ。
 巨大な蓋を開けるには、内側からでは難しい。“フライ”で空を飛ぶことはできるから、蓋さえ開けばこっちのものではあるのだが……。
 そう悩んでいると、事態は更に変化を迎えた。俺に良い知らせと悪い知らせがある。
 良い知らせは、蓋が開いたのだ。そして、脱出に成功した。
 悪い知らせは、そう……おもちゃ箱の外に吹き飛ばされたのだ。

「てえい!!」
 外から聞こえる、幼い声。おもちゃ箱を使う子供といえば、幼年部の幼児だから声だけでは性別まではわからない。
 だが、どうやら相当元気が溢れているようで、彼・彼女はその掛け声とともに俺のいるおもちゃ箱を投げ飛ばした。
 おもちゃ箱の中は大変だ。視界はぐるぐる回るし、身体もあちこちに弾き飛ばされる。
 積み木は巨大な質量を以て俺に襲いかかるから、俺はとっさに防御呪文を唱えるので必死だ。
 だが、意識があやふやになりながらも結果として俺はおもちゃ箱の外に出られた。
 あとは、急いで安全な場所に隠れればいいのだが……。
「ううっ……」
 おもちゃ箱の中での、連続した防御呪文。それの反動が来てしまったのだ。
 魔力は枯渇していないが、乱用による反動の魔力酔い。それによって、俺はつまづき倒れる。
「あれ、なあにこれ」
 倒れた俺を覗き込むのは、巨大な顔面。俺が何人いても埋めきらないであろうその広大さと不釣り合いに、スモックを着た姿はそれが幼い少女であることを如実に表していた。
 3歳ほどなのだろうか。好奇心旺盛な年代だ。幼児といえど巨大で、何をしてくるかわからないソレから早く逃げ出したい……。
 だが、恐怖と酔いに包まれた俺の身体は上手く動いてくれない。
「…………」
 そうしている間に、少女は俺に指を近づけて、つまみ上げ……。
「あー……」
「!? や、やめてくれ!!」
 俺は叫ぶ。この子は、俺を食べるつもりだ!! だが、彼女は聞く耳を持たず、俺をその口に近づけていく。
「ん!!」
 そして、俺は口内に放り込まれ、少女は口を閉じる。脱出の手段はなくなった。

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