とある盗人の結末(サンプル)

fantiaの100円プラン作品2021年9月号のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/910940

 慎重に、慎重に……行かねばならぬのだが。
 ガチャリ、と扉を開くと男を異変が襲う。
「な、なんだこれ……は!」
 視界がぐにゃりと歪み、意識は何処かへと飛んでいく。
 次に気がついたとき、そこは深夜にしても暗すぎる漆黒の空間。
 そして、異様なアンモニア臭が充満する、蒸し暑い場所だった。
「な、なんだここは!?」
 突然の事態に動揺する男は、緊急用に持ち込んだ懐中電灯を点ける。
 そうして開けた視界に映ったのは、巨大な薄桃色の丘と、その頂上を縦に裂くクレバスだった。
「なんだ、どういうことだこれは!?」
 この丘を見て、真っ先に思いついたのは女陰。しかし、大の男性が乗っても広大な大地となるような女陰があるだろうか。
「と、とりあえずここを出なければ……」
 だが、頭上を見上げても白。背後を振り返っても白。
 そのような純白の……よく見ると若干黄ばんだ白い布で覆われたこの空間に出口はない。
 脱出手段を講じる男性だが、彼にはただ考える時間を与えられることがなかった。
「うーん……」
 白い布の外から、幼い少女の声が轟く。
 ……実際は、かすかな声だったのだろうが、今の男にとっては雷鳴の如き轟音だった。
 それと同時、突然天を覆う布は圧迫を始める。
 外側から、丘へ向かって布が男を潰そうと迫りくる!
「くそっ、あの丘の割れ目……そこに入るしかないのか!!」
 薄桃色の丘を必死に登り、布に押しつぶされないように裂け目の内側へとくぐり抜けると、男は一層悪臭と湿気に包まれた空間に閉じ込められてしまった。
「くそう、なんだってんだ!」
 悪態をつき、近くにあったでっぱりを蹴りつける男だが、その軽率な行動は彼をさらなる悲劇……あるいは喜劇に導く結果となるのだった。
「んんっ!」
 再び聞こえる、幼女の轟音。しかし、それはどこか嬌声にも似たもので。
 今、男が入っている割れ目は外から圧迫が加えられる。
 布越しだが、太い柱が侵入してきたのだ。
 柱は割れ目の中を蹂躙し、男にはもはや逃げ場もなく……否、最後の逃げ場が残されていた。
「く、くそう! どこに逃げれば……あそこ、か?」
 それは、アンモニアの臭いを発する源泉。不浄の穴。
「すごく、すごく嫌な感じがするが……あそこしかない!」
 男はアンモニア漂うその穴目掛けて駆け出し、飛び込む。
「んっ……すぅ」
 それから僅かな時を経て、割れ目を蹂躙する柱は寝静まっていた。

「く、くそう。この穴はなんなんだよ」
 懐中電灯が照らす壁は薄桃色の、まるで肉の壁を彷彿とさせる姿だった。
 その奥ではザァザァという、何か水流のような音が聞こえてくるが、やはりここがどこなのかは男には想像ができなかった。

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