尿牢

 時は16世紀フランス。ここはアンジュー家に連なる男爵の家格を持つ貴族の邸宅。
 そこで僕は、執事見習いとして働かせていただいていた。僕自身は15歳で、貧しい集落としては食い扶持の維持も精一杯。そこで、貴族の使用人として働きに出されたのだった。
 大豪邸とまではいかないが、多数のガラス窓に赤い絨毯が敷かれた廊下。
 この家を管理するのはなかなか骨が折れるようで、その解決手段の一つとして僕のような下級市民が雇われているのだ。
 大変なことも少なくなかったが、それなりに上手くやってきて信頼関係も徐々に築き上げてこれたと思っていたが、ある日の午後。僕はやらかしをしてしまった。

「ドミニク、貴方なの?」
 アンジュー男爵家令嬢の私室にて。
 お嬢様が問い詰める。頭の左右に結ばされたブロンドの髪が肩にかかる少女。年の頃は僕よりも幼く13歳だと聞いている。
 その顔に浮かぶのは、怒りでも失望でもなく、困惑。どうして僕がこのような失態をしてしまったのが、それを理解することができていないようだった……それは、僕自身も同様であるが。
「この壺は侯爵家の方から頂いた大切な壺なのよ。値段ももちろんだけど、次に来訪されたときに壺がなくなってるところを見られたら失望されてしまうわ。それを……割ってしまうだなんて」
「誠に申し訳ございません。仕事に慣れてきたと思い上がって、油断していたのかもしれません」
「言い訳は……ないのですね。その真面目なところは貴方のいいところですね。ですが、信賞必罰の家訓に則って、貴方には相応の罰を与えなければなりません」
「どうか、罰を以て罪を償わせてください、シルヴィお嬢様」
「ええ、それではお覚悟を」

 それから、お嬢様はなにか呪文のような言葉を紡ぎ、僕に向けて手のひらを掲げた。
 そのおまじない……儀式? のようなものから数秒。何も起きないかと思っていたら、異変は僕の身に訪れる。
 先程までは僕の肩ほどの背丈もなかったシルヴィお嬢様の体が急速に大きくなり始めたのだ。お嬢様の顔は僕と向かい合い、その愛らしい顔立ちもすぐに天へと伸び上がり。まだ成長途上の平坦な胸部までも見上げなければいけないほどの巨体となっていた。
「お嬢様、これは一体……?」
「ふふ、まだまだこれからよ。ドミニク」
 困惑の言葉に対する、これはまだ余興だとの宣言。そしてそれは真実、さらなる変化が訪れる。
 お嬢様の体はまだまだ大きくなっていくが、僕の視線が膝と向かい合ったところで違和感を覚える……はて、お嬢様がこれほど大きくなっているのに館は壊れないのだろうかと。
 答えを求めて周囲を見渡すと、合点がいった。いつの間にか窓ガラスも高い場所にあったのだ。お嬢様だけではない、これは館もなにもかも、全てが大きくなっているのだ。
 こうなってしまうとお嬢様が大きくなっているというよりは、僕のほうが小さくなっていると解釈したほうが自然だろう。

 そうこうしているうちに、僕の体が縮むという異変は終息を迎えた。目の前にはシルヴィお嬢様の赤い靴のつま先が、巨大な壁として立ちふさがる。頭上を見上げると、黄緑色のスカートがまるで天幕のように降り立っている。ここまで小さくして、一体なにをやろうというのだろうか。
 シルヴィお嬢様は額に手を当て、僕を探すように床を見渡す。当然僕からしてみれば、天井いっぱいにお嬢様の顔が広がっているようで凄まじい迫力である。
「ふふ、まるでおとぎ話の小人のようですわ。いえ、半インチ(12mm)もない貴方では小人にすら丸呑みされてしまいそうね」
 丸呑み、という言葉を聞いて冷や汗を流す。
「これじゃあちょっと目を離したら見失っちゃいそう。だから、おとなしくしてくださいね」
 言うと、お嬢様は右手の人差指を軽く舐め、そのままゆっくりと、僕に近づけていく。
 突然迫りくる肌色の天井に、僕は恐怖するしかないが動くわけにもいかない。ここで逃げ出したら何があるかわからないし、それに僕を探すお嬢様や外を歩く他の使用人に踏み潰されかねないのだから。
 身を竦ませる僕に、お嬢様はその巨大な指をそっと押し当てる。
「ごぽっ」
 溢れかえる唾液に、僕は思わずむせる。お嬢様からすればわずかに指先を濡らしただけなのだろうが、今の僕の大きさからすれば大きな水たまり程度にはなっている。それを無理やり押し当てられたのだから、どうしても呼吸に苦労するのだ。
「私のつばで息が大変かもしれませんが、耐えてくださいね。これはまだ、本番ではないのだから」

 お嬢様はそのまま僕を指先に固着したまま、すっと持ち上げる。
 これが、本番じゃない。じゃあ一体何が……そう思っていたら、スルスルと衣擦れの音が聞こえてくる。器用に左手で、スカートのベルトを解いているのだ。ファサリ、と黄緑の幕が床に落とされると、そこから現れたのは純白の布が。フリルの付いていて可愛らしいこの衣は……
「ドミニクは、女の子のパンティを見たことはないかしら? ちょっと小さすぎて表情も伺えないけど……それだったら、私が初めてですわね」
 お嬢様は、その可愛らしいパンティを惜しげもなく脱ぎ捨てる。左足を上げ、そこからスルリと純白の衣を取り去ってしまうとあとはもうなにもない。隠すものを失った股からは、薄っすらと生える金色のアンダーヘアーに覆われた、縦に裂けた割れ目が広がっている。
「うふふ、殿方が自分より小さな女の子の体の中に入るのって、どんな気持ちなのかしら。それじゃあドミニク。今から貴方に”罰”を与えます。水牢ならぬ……尿牢といったところでしょうか」
 お嬢様が、僕の体を割れ目に近づけていく。それに伴い左手は割れ目をクパァと開け、僕を食べようと今か今かと待ち構えている。
 もわあと、臭いが広がる。尿の臭い。お嬢様の股間から漂うおしっこの刺激的な臭いが僕の鼻へと突き刺さる。正面を見据えると、尿道口は黄色い水滴に覆われている。お嬢様は先程用を足したばかりということなのだろうか。
 そして、僕を運ぶ人差し指の動きは止まらない。黄色いおしっこの水たまりにぽちゃりと沈めていく。
「うっぷ!」
 容赦のない、ダイレクトな尿攻め。僕の体の穴という穴からシルヴィお嬢様のおしっこが侵入していく。
 そうして、辺りは真っ赤な肉の壁へと光景を変えてしまった。壁の向こうからはザアザアと、血潮の流れる音がする。そしてすごいのは臭いである。当然だ。ここは……お嬢様が排尿する際に大量の尿が流れる通り道なのだから。
 鼻を摘んでも侵入してくるおしっこの臭い。だが、それに辟易する時間すら与えてくれずに環境は更に変化を加える。
「うわあ!」
 床だと思っていたところは壁となり、そして入り口……本来なら出口の外尿道口はわずかに光が差し込む天へと場所を移してしまった。
 僕の体は降下を始め、真紅の肉壁を掴むことすらできずに奥へ奥へと降ろされていく。そうしてたどり着いたところが、わずかに窪んでいる場所。
 尿道の奥にあるそこはすなわち、膀胱の入り口……内尿道口といったところだろうか。
 そう、分析の真似事をしていたらまたしても僕の体は宙に浮く。お嬢様が股に力を入れた……あるいは抜いたのだろう。僕の体は尿道の最奥へと送り込まれた。
「さあ、そこが貴方に与える罰の場所です。私は尿牢と言いました。賢い貴方なら……どういうことか、察しが付きますわね?」
 この空間の外から、お嬢様の声が曇ったような風に聞こえてくる。
 水牢ならぬ、尿牢。そして、今僕がいるのはお嬢様の尿道の奥の奥……すなわち、膀胱という場所なのだろう。
 あのおまじないの不思議な力か。光が差し込まないはずの膀胱内でもどういうわけかその光景は見えてくる。
 薄桃色をした、ひだが何本も走っている壁。壁には2つ、間隔を開けてぽっかりと穴が空いており、そこから黄色の液体が少しずつ流れ込んでくる。あれが、おしっこの源流といったところなのだろう。
「ここからは私との我慢比べです。私が次に用を足したとき、それが貴方が許されるときでもあります」

 それからというのは様々な困難が僕に襲いかかった。
 穴から流れ出るおしっこの勢いはさほど強くない。だから、解放のときは遠いだろうがすぐには何も起きないだろうと高をくくっていたがそれは間違いで、お嬢様が「紅茶の時間ですわ」と言ったときから時間を置かず、急激に膀胱に流れ込むおしっこの勢いが増したのだ。僕もたまにお茶の席に同席させてもらうが、その後妙におしっこが近いからそれが関係しているのだろう。
 それで勢いを増したおしっこの濁流は、みるみるうちに膀胱内に黄金水の湖を作り出していく。僕の体も、既に肩までシルヴィお嬢様のおしっこに浸かってしまい、泳がないと溺れてしまいそうだ。
 そんな折、またしても膀胱内では異変が起きる。今度は「運動しないと体が鈍ってしまいますわ」とお嬢様の声が聞こえる。わざわざ言わなくてもいいのだろうが、これは次に何かの異変を起こすという宣言なのだろう。
 この空間の主たるお嬢様が走り出したのだろう。黄金色の湖は大きく揺れだし、津波となって僕に襲いかかる!
「うわああ!!」
 波に体を囚われた僕は、見事なまでに転覆し、そのままひたすらに揺れ続ける湖に巻き込まれるのみだ。縦に横にとシェイクされ続けた僕はもはや自分の意思ではどうすることもできず、口の中いっぱいにお嬢様のおしっこを含んでしまい、そのまま飲み込まざるを得なかった。
「お風呂の時間ですわね」
 それからいくらの時間が経ったのだろうか。今度の宣言は湯浴み。ただでさえ人肌で熱せられ、おしっこという液体に満たされたこの空間は蒸し暑く、僕からはだくだくと汗が流れ続けるが、それすらももはや黄金の湖に飲み干され、僕の体にはもうお嬢様のおしっこしか残っていないのではないだろうかと錯覚させられる。
 一体どれほど耐えれば、この尿の牢獄から解放されるのだろうか……
 もともと蒸し暑いこの空間にお風呂の熱まで加えられて、僕自身はお風呂に入っていないのにのぼせてしまいそうで、そうして意識も手放そうとしたその時……

「さて、そろそろ頃合いですわね。ちょうどここならすぐ流せるし、いいかもしれませんわ」
 そんな、声を聞いた気がした。黄金の湖の湖底には穴が空き、そこを起点にぐるぐると渦を巻いて黄金水が流れ出ていく。
 僕もその流れに身を任せ、真紅の通路をただ直進して流れ着いたその先……

 ジョロロロロ……

 床に叩きつけられるように、身を放り投げだされた僕。そして、頭上に降り注ぐのは黄金色の滝。
 黄金の毛に薄っすらと覆われた割れ目の谷から流れ出る液体は、先程までその内部にいた僕に対しても容赦なく叩きつける。
 頭上を見上げると、シルヴィお嬢様がしゃがんで用を足している……僕に向けて、だが。
「ふう、我慢したから結構出ますわね」
 それから長く、あるいは数十秒程度だろうか。その間続く放尿が終わると、お嬢様が一言。
「よく頑張りましたわね。私のおしっこで溺れずに、こうして帰ってこれたこと。褒めて差し上げますわ」
 こうして僕の失態を巡る長い一日は終わりを迎えた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です