黄金の錬金水

シューリック王国、ネイバタウン。
ここは一見すると水車が目立つだけの、田舎町だ。
しかし、そんな田舎には知る人ぞ知る錬金術師が暮らしていた。
今日も錬金術師の薬を求めて、一人の少女が訪れる……

カランコロン
赤レンガの屋根をかぶった一軒家の扉を開けると、長方形のテーブルに椅子が4つ。診療所としての機能を持たせるつもりはないらしく、あくまでここは自分の家だということを主張している。

「ごめんくださーい」

長い黒髪を携えた水色のワンピースの少女、年の頃はまだ13といったところだろうか。あどけない顔には不安の表情が隠しきれずにいるようで、その薄い胸の中では心臓の音が響いている。
鈴の音のような声はよく澄んでおり、家の中に響く。

「なに、客?」

その声を聞きつけたのだろう、居間の奥の扉から一人の女性が姿を表す。こちらもまだ年若い。20代もまだ前半と行ったところだろうか。
しかし、出不精なのだろうかその紫色の髪は手入れが行き届いておらず、ボサボサとしている。

「あ、はい。貴方が錬金術師のフィオさんでしょうか? 兄が難病で、どうしても錬金術の薬でなければ治せないと聞きましたので……」

「私がそうだけど。錬金術の薬、ねえ……。ま、いいわ。一応診てみるから。その兄とやらはどこ?」

少女は「兄が病」というが、肝心の兄の姿はどこにもない。フィオは訝しげに顔をしかめるが、まもなく合点がいったようだ。

「もしかして、縮小病かしら? お兄さんも近くにいるわね」

「わかるんですか!? はい、こちらが兄です。もう、身長が1mmほどしかなくて……」

少女がワンピースの胸ポケットに手を入れ取り出すと、たしかに中からは極小サイズの男性が姿を見せる。

「遅くなりました、私は隣町に住むサラ。兄の名前はガクと言います……それで、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫かどうかで言えば、問題ないわ。元々この病気は症状が進行してないと治療薬も作れないしね」

フィオ曰く、縮小病を治すにはある種の適正を持った女性のとある臓器で発生する酵素を患者の人体に馴染ませる必要があるそうだ。
そして、その臓器というのが……

「膀胱……ですか?」

膀胱、人体にとって不要な成分を尿として溜め込む臓器である。縮小病の治療に必要な酵素は、適正持ちの少女の膀胱内に患者を滞在させることで馴染ませる必要があるらしい。

「あいにく、この町にいる適正持ちの女の子はみんな出払ってるんだけど、どうかしら。貴女自身が適正を持ってないか調べてみる?」

「適正があれば、兄さんが、私の膀胱の中に入るんですよね。……恥ずかしいですが、少しでも早く治してあげたいのでお願いします」

数刻後、検査は滞りなく終わり結果は出された。幸か不幸か、サラは縮小病を治す酵素を持っているらしい。

「じゃあ、覚悟はいいかしら? と言っても、貴女自身はただ寝ているだけでいいんだけど」

「やっぱり恥ずかしいです……でも、お願いします!」

場所はフィオの工房に移され、サラは患者用の白いベッドの上に寝かされている。ただし、ワンピースは脱がされてしまい陶磁のような白く透き通った肌が晒されている。胸にはフリルのついた可愛らしいブラジャーが付けられているが、股には一切の布がない。
パンツを履いたままでは兄を尿道に挿入できないため当たり前ではあるが産まれたままの姿を兄に見られていると思うと恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。

「それじゃ、行くわよ」

そう言って、フィオはピンセットで慎重にガクを摘む。その行き先は薄っすらと黒い木々が生い茂った森の奥。銀の器具によって開かれたクレバスの中、桃色の縦穴のすぐ側へと配置される。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

俺はガク、つい最近まで冒険者として活動していたが、ダンジョンのトラップによって厄介な病気になってしまった。
縮小病。患ったら最後、刻一刻と身長が縮み続ける奇病だ。
仲間たちに連れられて故郷へと帰ったはいいものの、治す手立てはなかなか見つからず、気がついたら身長1mmだという。
そこに来て、ようやく妹のサラが治療法を見つけてくれたのだという。我ながら、よくできた妹で助かる。
サラが着るワンピースの胸ポケットに入れられた訪れた先は、隣町に居を構えているという錬金術師フィオの工房だった。
フィオが言うには、俺はサラの膀胱の中で酵素を取り込んだ上で薬を摂取することで縮小病が治るのだという。
あれよあれよと話が進む間に、俺の体は巨大な二本の棒に挟まれ桃色の大地へと降ろされた……

「うう、臭いがキツい……話の通りならここは尿道口のすぐ側だよな。じゃあ、この臭いはサラのおしっこの臭いってわけか」

周囲を見渡すと、桃色の壁が俺を包むように囲んでいる。元より逃げるつもりもなければそもそも逃げることなどできるわけはないが、どうあっても陰唇から外へ出ることはできないだろう。

「仕方がない、これも縮小病を治すためだ。諦めて尿道を潜るとしようか」

そして、俺は尿道口から身を投じてサラの尿道の中を潜っていく。
女性の尿道は男性と比べて長くないと聞く。だから、降りるのにも時間はかからずに無事内尿道口へと着地。本来発生しないであろう外側からの僅かな衝撃にサラの体が驚いたのか、尿道口は口を開いて俺を内側へと招き入れた。

ポチャン
外には全く聞こえないであろう水音が、真紅のドーム内に響き渡る。
膀胱内に光源はない。当然、本来であればここは暗闇に包まれているはずだが縮小病の副作用というべきか。俺は暗闇の中でも眼が効いていた。
膀胱内を見渡すと、上部には先程俺が落下してきた入り口……いや、出口か。尿道口が既に閉じていた。壁には2つの穴が空いており、そこから黄金の滝が流れ出ている。まるで湧き水のようだが、これはサラのおしっこ……決して体にいいものではないだろう。
アンモニア臭というものか。おしっこの溜池なのだから当然だがここはおしっこの臭いに満ちている。フィオが言うには、このアンモニア臭こそ縮小病の治療に使う酵素ならしいが臭いがキツイのはごまかせない。
臭いがキツイのはわかっていたが、予想以上に辛いものもある。

暑い……。
ここは妹という一人の人間の体内なのだから当たり前だが、人肌に温められたこの空間はサウナルームのような湿度と熱気を持っていた。その湿気も、普通の水ではなく妹のおしっこなのだからたまらない。
いつまでこの過酷な空間に滞在すればいいのだろうか……たしか、フィオは「自然に排尿する程度の時間が丁度いい」と言っていた気がする。
……3時間くらいか。
冒険者だから過酷な状況には慣れていたつもりだったが、このような『不快』な環境にはあまり慣れていないのが辛いところだ。

俺が妹の膀胱に入ってから、もう何時間経過しただろうか。
尿管というらしいおしっこの吐き出される穴から流れ続ける尿によって、サラの膀胱内は既に黄金水の湖どころではない。
尿管から排出され続けた尿は膀胱内に溜まり続け、膀胱壁すらもゴムボールのように膨らませていた。
俺は縮小病の副作用とやらで息が続いているが、サラはここまでおしっこを我慢して大丈夫なのだろうか。
それとも、この程度は我慢するどころか尿意にすらならないのか……

そう思案していると、膀胱の壁に突然穴が開く。穴が開いたことで、膀胱内の尿は外へ引っ張り出されるように螺旋を描いて排泄されていく。
俺も、取り残されないようにその渦に巻き込まれていき……

ジョボボボボ……

螺旋を描く尿の中で、俺は透明なガラスでできた空間へと叩きつけられた。
上を見上げると、そこには黒い林に覆われた巨大な口が黄金色の滝を流し続けている。
ちょろろ、などという可愛らしいものではない。巨大な陰唇から放たれるのはその大きな口に見合った太い滝で、怒涛の濁流となって俺を襲う。
ガラスの外を見ると、純白でか細い――今の俺と比べると遥かに巨大な――柱が、この空間を持ち上げるように支えていた。
見間違えるはずもない、サラの指だ。
足元を見る。黄金水が満ちているその下には白い陶磁に透明な湖が凪の湖面を作り上げている。
今までの状況を察するに、サラはフィオの工房内にあるトイレで三角フラスコの中におしっこをしているのだ。これも治療の一環なのだろう。

「ふう……」

サラは小さなため息を吐くと、陰唇から数滴黄金の雫が垂れて俺の頭を叩く。
あっという間にフラスコの半分はサラのおしっこに満たされてしまった。フラスコの壁は、おしっこの湯気によって曇ってしまい外の様子は伺えない。

サラは慎重にフラスコを運び、一言。

「おしっこしてきました」

表情は伺えないが、その声色は恥ずかしそうだ。

「そう、お疲れ様。それじゃあ最後の仕上げをするわね」

フィオはそう言うと、フラスコの口にコルクで栓を閉める。
おいおい、どういうことだ……

「あとはこのフラスコを精一杯振って、貴女のおしっこに含まれる魔力と彼を全力で馴染ませるの。これが済んだら、自然と縮小病は治るはずよ」

「あ、あの……何時間も膀胱にいたのですからもう馴染んでるんじゃないですか?」

「いいえ、ただ膀胱にいるだけじゃ甘いわ。全力で撹拌しないと効果がないのよ。それじゃあ、行くわね」

その言葉が最後通牒だったかのように、フィオはサラのおしっこフラスコを全力で振り回す。その中にいる俺などお構いなしだ……俺の治療のためだから当たり前だが。
振り回され、前後も左右もわからずにおしっこの湖で溺れる。空気は問題ないのだが、勢いに任されて俺の体が侵されていく。何に? それは当然、サラのおしっこだ。
サラのおしっこは容赦なく俺の口から体内を侵していく。しょっぱい。ほのかにしょっぱいその尿は、たしかにサラのおしっこであった。

治療行為として行われる容赦のない撹拌。それによって俺の体はフラスコの壁へと幾度も叩きつけられ、遂には意識を手放してしまう。

……気がつくと、全てが終わっていた。
俺の体は元の大きさへと戻っていて、治療費さえも既に支払いは終わっていた。
それからは何事もなかったかのように日常へ戻ってこれた。
唯一、変化があったのはサラがあるものに興味を持ったこと。
あれからというもの、サラは妙に縮小病の研究に興味を持ち出した。どうしてか聞いても、秘密の一点張りで要領を得ない。
なにか、嫌な予感を覚えつつも俺はたしかに日常に戻ってこれた……はずだ。

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