縮小魔法医セドリック1

「先生、その……私の体が変なんです」

思春期ほどの少女が、僕に相談を投げかける。ブロンドの髪を持ったツインテールの彼女は体の悩みを持っているようだ。
僕はこの街でほそぼそと、魔法医と呼ばれる職についている。
ネームプレートにはしっかりと「魔法医」という職業名と「セドリック・カルノー」という僕の名前が刻まれている。
魔法医、それは魔法の力を使って患者の体を治療する医者だ。
治療方法は魔法医ごとに異なるが、僕の治療法は使える魔法の都合上特異なものである。

「ふむ、具体的にはどんなことで困ってるのかな?」

「それは……その……」

少女は顔を赤らめて口ごもる。
思春期の少女が恥ずかしがるということは、あまり口にしたくないことなのだろう。

「その……っこのときです」

それでも、少女は勇気を出して何かを言う。

「……おしっこ?」

「……はい。おしっこの時、しみるように痛いんです」

排尿時に痛む……ということは、膀胱炎か。
僕は男性だから経験がないが、女性には多いという症状だ。

「なるほど、わかったよ。君は膀胱炎という症状のようだ」

「膀胱炎、ですか?」

「ああ、細菌が膀胱……おしっこを溜めるところに入り込んで悪さしてるんだ」

「…………?」

少女はいまいち理解できていないようだが、無理はない。
この国では医療の学問が盛んではなく、未だに病気は呪いから来ていると信じているものもいる。
事実、ややこしいことに呪いが原因で病気になるケースも有るのだが。
……だからこそ、僕たち魔法医は医学的な側面と魔法による側面から病気を研究しているのだ。

「とりあえず、治療は今すぐできるけどどうする?」

「えっと、それじゃあお願いします」

「じゃあ、まずはトイレでおしっこをしてきてくれるかな?」

「え……、それって治療と関係があるんですか?」

少女は僕の指示を聞いて怪訝な顔をする。

「ああ、それが関係あるんだよ。僕はこれから小さくなって、君の膀胱の中に入る。そして、内側から膀胱炎の薬を塗るから先に君の膀胱のおしっこを空っぽにしないといけないんだよ」

僕の魔法医としての治療法、それは縮小魔法「スモール」を使って自らの体を縮め、患者の体内から直接治療を施すことである。

「先生が私の体に……!?」

「きっと恥ずかしいかもしれない。けど、君の体を治すのに必要なことなんだ」

「うう……他に方法はないんですか?」

少女はためらう様子を見せる。思春期の少女が大人の男性を体内に、それも秘部に近い箇所へ入れるのは大きな抵抗があるだろう。

「少なくとも、今はないだろうね」

「えっと……せめて女性の先生とかは」

確かに、男性よりは女性の医者のほうが抵抗は浅いだろう。
だが、僕は彼女に対し残酷な切り札を有している。

「実は、君の病気はこの国では僕しか直せる魔法医はいないだろう」

「えっ……そんな!」

「”穢れ”という概念を知ってるかい?」

「はい、不浄なもののことですよね。それが体に溜まると悪い病気になるとか……」

穢れ、それはこの国で古くから伝わる概念の一つだ。
死体や血、排泄物などに宿り周囲を汚染する存在。それが穢れだ。

「おしっこも穢れの一種っていうのはなんとなくわかるよね。それが僕たち医者にどのような影響を与えているかわかるかな?」

「えっと……ちょっとよくわかりません」

「僕たち魔法医の間では、人のおしっこやうんちも病気の原因になるって考えてるんだ。でも、そういうのは穢れとして意図的に遠ざけられていて誰も研究しようとしていない。つまり……」

「貴方しか、私の病気を研究している人がいないってことですか?」

彼女はハッとした顔になる。
どうやら、膀胱炎を直せる医者が僕しかいないということの意味に気づいたようだ。

「付け加えると、僕はとある事情でそういった穢れに強い耐性を持っているんだ。だから、君の体を治すには僕が適任ということさ」

「わかりました。……恥ずかしいですが、お願いします」

そう言って、彼女はお手洗いに席を立つ。しばらくすると戻ってきて不安な表情をしながら対面する。

「準備はいいかい?」

「その、一体私はどうしたら……」

「そうだね、先に君にして貰いたいことがある。僕が『スモール』の魔法で小さくなったら、君はそのスカートと下着を脱いで、ベッドに仰向けで寝てもらいたいんだ」

「……わかり、ました」

僕が体の中に入ると聞いたときから薄々勘付いていたのだろう。渋々ながら彼女は同意してくれた。
彼女がベッドの上で上向きで寝るのを確認すると、僕は隣に座り魔法を唱える。

「『スモール』!」

すると、周囲の光景は瞬く間に巨大化していく。
足元の白いシーツは広大な大地となり、すぐ隣で寝ていた少女も巨人と化す。
彼女が履いている白い靴下は巨大な壁へと変貌している。

白い大地となったベッドの上を歩き、たどり着いた先は陶磁器のようなすべすべした肌色の壁と、巨木のような黄金色の陰毛の柱の森林で囲まれた三角州。
森林からは尿の臭いが漂っている。よく見たら拭き残しがあったのか、黄金色の水滴が付着している柱も確認できた。
僕は黄金の森林を掻い潜り、白い肌の壁を登攀していく。

そして登り付いた先、そこはやはり黄金の柱の森林であり、そしてその中心部には巨大なクレバスの裂け目が存在する。
僕は強いアンモニア臭が残る森林を歩き続け、彼女の大陰唇の中へと侵入する。
目指すは小さな尿道口。先に広がる巨大な膣口へうっかり落下しないようにしながら僕はクレバスの内側を歩くと間もなく目的地へと到着した。
緊張してあまり意識していなかったのだろうか、尿道口の周囲には尿が残っており、尿道口自体も尿の池で覆われていた。

「さて、入るとしようか」

ジャポン、と音を立てるがそれはこの巨大な大地の主である少女には聞こえない。あまりにも僕と尿の池、そして彼女との体格差は比べようもないほど隔絶しているからだ。

「ん……!」

確かに体格差は大きい。しかし、僕ほど小さな侵入者であっても異物は異物。
それが繊細な尿道へと入り込むと彼女の無意識は反応し、この尿道の縦穴を大きく震わせる。……もっとも、それは彼女からすると小さく体を震わせただけなのだろうが。
大きな揺れを確認するが、尿道の洞窟を落下し続ける僕にはあまり関係はない。
暫く降下し続けると底へと到達する。その場所は尿道括約筋、その尿道側である。
排尿直後の内尿道括約筋はぴっちりと閉まっているが、魔法医である僕には関係がない。

「『アンロック』」

解錠の魔法を内尿道括約筋へとかけると足元はぽっかりと穴を作って僕を目的地へと導く。
目的地である膀胱、そこは赤い肉壁に覆われた巨大な空間となっている。特徴的なのは、尿を溜める場所であるためか当然のように一段と強いアンモニアの臭いが漂っていることだろう
付近には2箇所、小さな穴が空いておりそこからは湧き水のように黄金色の液体が湧き出している。

「さて、おしっこが溜まってくる前に片付けないとな」

今回の仕事場へと辿り着いた僕は早速仕事に取り掛かる。
膀胱壁を観察すると、やはり想定通り炎症を起こしている箇所がチラホラと確認できた。
僕は持参していた塗り薬をその患部へと塗っていく。
すると、魔法の力も込められた薬のお陰か、患部の炎症は瞬く間に治っていく。
後は僕がここから脱出するだけだが……

「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

僕は体外の患者へと声を掛ける。
通常、小人やスモール中の人間と人間は、あまりの体格差で会話による意思疎通はできない。
だが、声を大きくする魔法「エコー」のお蔭で意思の疎通は問題ない。

「な、なんでしょうか……」

「枕の側にお茶置いていたの、わかるかな」

僕はとある理由で、彼女の枕元にお茶を置いていた。

「はい。紅茶ですね」

「それを飲んでくれるかな?」

「わかりました」

その返事を聞くと、空間の床は壁となり、壁だったところが床となる。
お茶を飲むために姿勢を変えたのだろう。
頭上の方、肉壁を隔てた遥か上空からゴクゴクとお茶を飲む音が聞こえる。
そのお茶は、僕が彼女の膀胱から脱出するために用意したもの。
お茶の利尿作用に加え、利尿剤も混ぜてあるものだ。

「飲みました」

「じゃあ、後は暫く待っていればいいよ。ただ、おしっこをしたときはトイレの水を流さないようにね」

「えっと、それは……」

「内尿道括約筋……膀胱の出口を開くためにかけた魔法『アンロック』は水に触れると使えないんだ。つまり……」

「つまり……?」

「僕は、君がおしっこをする時に一緒に出てくるってことだよ」

「は、はい……恥ずかしいですけどわかりました」

半ば諦めかけているかの様な声色だが、理解してくれたようだ。
利尿剤はすぐに効いてくれたようで、膀胱壁に空いた2つの穴……尿管からは怒濤の様におしっこが溢れ出てくる。
おしっこの水位はみるみるうちに増していき、黄金色の湖を形成する。少女の体内で暖められたそれは人工の温泉のようで、生ぬるいが人肌に包まれているようでどこか安心感を覚えてしまう。
おしっこはあっという間に膀胱を満たしたが、まだ患者の少女は動き出さない。
膀胱がいっぱいになっても気づかないとは、いわゆる貴婦人膀胱というものなのだろうか?
僕は、空気がなくなった空間で呼吸するために「コンバージョン」の魔法でおしっこを空気に変換しながら立ち泳ぎしていた。
変換の際に口へと入ってしなうおしっこの味は、凝縮された汗のようでしょっぱい。あまり飲みたいものではないのはどの患者でも同じであった。

暫く待っていると、尿管から流れ続けるおしっこが膀胱壁を圧迫していき、そこでようやく膀胱内に異変が起きる。
連続した揺れで内部のおしっこの湖が撹拌されていく。少女がトイレに行くために歩き出したのだろう。
ガタン、という音はトイレの扉を開閉した音だろう。
強めの縦揺れを最後に、膀胱の壁が空き渦を作り出す。遂に少女が排尿を始めたのだ。
その流れに乗り遅れないようにと僕は黄金の渦に身を任せて壁の穴へと流されていく。

ジョボボボボ……

およそ4時間ぶりだろうか、僕は少女のおしっこと共に白磁の陶器の中へと排泄された。
周囲は先程までも膀胱内とは異なり透明な湖だが、それも上から降り注ぐ黄金の滝によって黄色く染まっていく。

ジョワァアアアアアア

膀胱壁が薄くなるまで溜めていたからか、未だにおしっこは流れ続ける。
上を見上げると、先程まで僕が入ってたであろう膀胱へと続く洞窟の入り口、尿道口が存在するクレバスが滝口となっている。
そこから流れるおしっこは、黄金の柱を濡らしながら僕のいる滝壺へと降り注ぐ。
それは周囲の水を黄色に染めるだけにのみならず……

ジョババババ!

「うっぷ!」

おしっこの滝は僕の頭を強く叩きつけ、湖の中へと沈める。

チョロロロロ……

僕がどうにか浮かび上がった頃にはおしっこの勢いは鳴りを潜め、膀胱内の残りの尿を出すのみとなっていた。
少し余韻を残した後にカラカラという音が鳴り、何層にも重ねられた大きな白い紙を持った巨大な手が少女の股を拭う。
そして、黄色い染みを付けたそれを湖の中へと落とすと少女は去っていった。

個室内に誰もいなくなったのを確認すると、僕は「スモール」を解除して元の大きさに戻る。
患者自身のものとはいえ、流石に全身おしっこ塗れで人前に出るわけにも行かずにシャワーを浴びると、僕は診察室へと向かった。

「それで、どうでしたか?」

「どうでしたか、といいますと……」

少女は質問の意味を測りかねているようだ。

「おしっこをした時、痛みはありましたか?」

「あっ……いいえ、もう大丈夫でした」

自分のおしっこが他人に見られていたことを思い出したのか、少女は顔を赤らめて返答する。
ともあれ、どうやら治療は成功したようだ。

「それは良かったです。ただ、今後のために助言をさせてください」

「なんでしょうか?」

「おしっこはあまり溜め込まないようにしたほうがいいですよ。今回の膀胱炎も、それが原因かも知れないですからね」

それを告げると、少女は顔を真っ赤にして沈黙しながら帰っていった。
これで今回の診療は終わりだ。また次の患者を待つとしよう。

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