【Fate二次創作】聖杯の泥【オリジナルサーヴァント】

――その男は、かつてとある少女の『マスター』と呼ばれる存在であった。
しかし、今はどうだ。
四方を取り囲むは巨大な鼠、蟷螂、蟻……
そして頭上には多数の雀の姿がある。その上、宙空には巨大な『少女』の顔。
いずれも『彼』を狙い、にじり寄ってくる。
ああ、どうしてこうなったのだろう。
今まで、彼女とは上手くやれていた、そう思っていたのに……

話は昨夜まで遡る。
男は『聖杯戦争』と呼ばれる魔術儀式の参加者、『マスター』と呼ばれる存在だった。
この際詳細は省くが、彼は今回の聖杯戦争でライダーのサーヴァント、『おやゆび姫』の召喚に成功した。

「……貴方が、私のマスターですか?」

親指ほどしか身長がない彼女は事実、聖杯戦争における最弱のサーヴァントと言っても差し支えない英霊であった。
しかし、男は奮闘した。叶えたい願いがあったから。
幸い、このマスターは数ある聖杯戦争を見渡しても稀有な戦闘能力の持ち主である。そのため、戦力外のサーヴァントを連れても十分に戦えていた。
……男に、不満はなかった。男には。

「マスター、私はやはり足手まとい……なのでしょうか」

不満、否。不安を抱えたのはライダーの方であった。
やはりというか当然というべきか。魔術的戦闘兵器としての側面を持つサーヴァントであるにもかかわらず、かえってマスターの足手まといとなってしまったことを彼女は耐えられないようだった。

いつか、捨てられるのではないだろうか。いつか、見捨てられるのではないだろうか……

童話の中で、数々の困難に直面しては様々な人物に助けられた彼女は、人の善性を信じる一方で『もしも』を考えて恐怖する悪癖があった。

もしも、あの時助けられなかったら。今の自分は決して存在していなかったという想像を、どうしても捨て去ることができなかった。

だから、手を出してしまった。決して触れてはならない禁断の果実に……

どことも知れぬ路地裏。
そこに、胡散臭い魔術師が居た。

「へっへっへ、まさかサーヴァントの客が来るとはねえ。
それで、今回は何をお求めかな、小さなお姫様」
「……私を、強くしてください。魂を改竄してでも」
男はヒュウと息をつく。
「へえ、小さな体なのに思い切ったことをするじゃん。
すぐに強くなりたいんだったら、おすすめの手段があるけどどうする?」
「! すぐにでも、今すぐにでも力が必要なんです!!」
それは、あの人のために……!
そう口が続けようとするのをこらえて要求する。
「あいわかった。それならこいつを飲むといい」
言って、彼が取り出したるは金色の杯、そして……

「なん……ですか、これ」
悍ましい色彩を放つ、泥のような液体であった。
「こいつぁ聖杯の泥と呼ばれるやつだ。かつて冬木市で行われた聖杯戦争で流出したらしくてな。
こいつを浴びればそれでパワーアップ! って寸法よ」
「……もちろん、代償があるのでしょう?」
「当然。聖杯の泥を浴びたサーヴァントは『反転』する」
反転。それはサーヴァントの別側面、いわゆるオルタナティブを表出化させる現象。
「……私が反転したところでどうなるのでしょう」
オルタナティブは基本的に、真っ当な英雄とされる人物の悍ましい側面となる。希にシェイクスピアやモーツァルトと言った人物のオルタナティブも存在するとされるが、元来中立な性格である彼らには大きな変化はない。
中立・善の属性を持つライダー、おやゆび姫も同様である。

「さてねえ。しまいこんでいた願望でも出てくるんじゃないか?」
「そんな適当な……」
「ともあれ、お前さんはこれをどうしたい」
「どうしたいって……」
「自分を曲げてでも強くなるのか、そうでないのか」
「……」
ライダーは悩んだ……否、悩むふりだけしていた。
実際のところ、彼女は既に心に決めていたのだ。
いかなる手段を取ってでも、マスターを守ってみせると。だから……

「使います」
「お」
「私は、反転してでも聖杯の泥を浴びます」
「いい言葉だ、今すぐ処置してやろう」
コンクリートの上にいるライダーに、聖杯の泥がかけられる。
「!!」
聖杯の泥はすぐさま彼女を蝕み、黒く染め上げる。
「これ……は……」
黒くなったのはほんの数瞬。直後には既に今までどおりのライダーの姿に戻っていた。
「ふむ、そうなるか」
「一体どういうことなのです、成功したのですか、それとも……」
ライダーは詰め寄る……もっとも、その体の大きさでは一切緊迫感はないが。
「いや、成功しただろうさ。ただ、元の霊基が弱いのか、大した変化はなさそうだな」
「そんな……」
「まあ、お代は取らないさ。もとよりこれは俺の『趣味』だからな」
ライダーは呆然とし立ち尽くし、魔術師は姿を消す。

そして、ライダーが変貌したのが今朝であった。
「マスター、すぐ終わるので逃げないでくださいね」
ライダーが呟く。そして、次の瞬間には辺りが一変していた。

『童話体験・鳥獣波濤(ミニマム・アニマル・ツアーズ)』
これはライダーの持つ唯一の武器である結界宝具。
効果対象とされた人物は小さな箱庭へと放り込まれ、そこでライダーにとっての親指ほどの大きさで活動することとなる。
しばらくすると、鼠や蛇、蛙といった小動物――しかし、放り込まれた人物にとっては巨大な――に襲われるえげつない宝具である。
それに、マスターは囚われた。
無論このような宝具は自身のマスターに対して使われるものではない。だから、男は困惑した。
今まで上手くやれていたのに、どうして……と。

「マスター、すぐに出しますので安心してください」
空から響き渡る少女の声、そして次の瞬間には確かに、その宣言通り男は外の世界へと舞い戻った。
……小さな小さな、おやゆび姫の親指にしか及ばない小人として。

「小さく、なっちゃいましたねえ」

昨夜の時点でライダーには変化がなかったように思えた。しかし、実際には確かに変化があったのだ。
それは、マスターを守るという決意と、自らの欲望の表出化が最悪の形で噛み合うものであった。

自分はマスターを守りたい。しかし、マスターは自分が関わらなくても構わないほど強い存在であった。
ならば、どうすればいいか。
その思案の結果が、マスターを矮小化し、自らよりも弱い存在とすることであった。
そして、矮小化したマスターをどうやって守るのか、それは……

「さあ、マスター。私の中へ入ってください」

ライダーは衣服を脱ぎ捨て、自らの秘部を露出した。
そこは毛が生えていない純白の、ただ一筋のクレヴァスのみが存在する丘である。

マスター……もはや『主』とは呼べない男性は困惑した。
なぜ、彼女はこのような凶行に及んだのか、自分は今から何をされるのか……
その戸惑いは解消されることなく、幼く小さな右手は男の体を掴む。

「今からここが、貴方の家となる場所ですよ」

口にしながら、左手でクレヴァスをこじ開けながら、男を秘部へと挿入していく。

……男はもがき、苦悶の声を上げる。
幼い少女の秘部は、男性を受け入れるにはまだ狭かった。しかし……

「あっ、あぁぁ!!」
少女は愛しの男性と自らが一体化した感覚を確かに覚え、矯正を上げる。

少女の膣内からはドロリとした生臭い液体が溢れ出す。
男の口にはそれが否が応でも入ってくるが、吐き出すことができない。
あまりにも大量だから、ではない。
それは
あまりにも
美味であったからだ。

ライダーが聖杯の泥を浴びて得たもの。それは戦闘力ではなかった。
いや、宝具の変質――結界を強制的に破壊することで、内部の状態を外部に直接反映させる――という形で強化されてはいたが、それは別の話。
彼女が真に強化されたのは、栄養体質であった。
ライダーから分泌される体液は、飲用するものにとっては非常に美味で、健康的なものとなったのである。
そして、ライダー自身は非常に弱い英霊であるがゆえに、極小の魔力消費で維持され、現在の魔力すら聖杯の泥によって膨大なものとなっている。
また、ライダーには気配遮断のスキルが備わっており、積極的に攻撃に出ない限りは襲われる危険性は限りなく低い。
つまり

「私の中にいる限り、貴方は安全で、死ぬことはありません。だから……」
「ずっと、私と一緒に居ましょうね」

外敵に襲われることは、ない。健康を害すことも、ない。
彼はただ、そのような安穏とした胎内(セカイ)でこれからを過ごすこととなる。

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