無垢の暴力

街の公園にいる俺は、喉が渇いていた。それもどうしようもないほどに。
公園にいるならば、水道の水を飲めばいいと思うだろう。しかし、俺にはそれが叶えられない理由があった。
ミニマムシンドローム。極小症候群とも呼ばれるソレに患った俺は、身長0.5mmほどの大きさへと変貌してしまっていたのだった。
今でも周囲は茶色の荒野にしか思えず、普通の人間にはここが公園だなんて俺には思うことができない。
虫ほどの大きさもない俺には一応の支援金が与えられているが、それも天涯孤独で保護してくれる存在がいない俺には関係がない。
もはや脱水症状で野垂れ死ぬしかない、そう思っていた矢先に天から声が聞こえる。

「あれ、もしかして貴方小人さん?」

その声は目の前の青い鉄柱……ベンチの足の上から聞こえる。
公園のベンチで休んでいる、少女の声だ。
顔を声のする方へ仰ぐと、栗色のセミロングの髪を伸ばした巨大な少女の顔のくりんとした目が俺を眺める。
年の頃はまだ10行くかどうかといったところか、肩にはランドセルの赤い帯が見える。

「あ、ああ……だけど、俺には助けてくれる人なんていなくてな。もう死ぬしかない命なんだ」

情けないことに、俺は出会ったばかりの少女に身の上を話していた。
たとえ助けられることがなくとも、人に話せば少しは気分がマシになるだろう、そう思っただけだったのだが……

「じゃあ、私が貴方を助けてあげる!」

その少女は、俺にとってはまさに救いの女神となった。

「い、いいのか? 親御さんだっているだろう」

「いいの、お父さんもお母さんも私のことなんて見てくれないし……それなら私のご飯を貴方に分けてあげる!」

少女もまた、孤独の身であった。

「今日はなんて日だ……救いはここにあったのか!」

「なにか言った?」

「いいや、なんでもない……ところでなにか飲み物を持ってないかい? もう喉がカラカラなんだ」

「うーん……」

少女は可愛らしく、手を顎につけて考え込む。しばし思案した後、彼女は閃いたように手を叩く。

「もうほとんど無いけど、小人さんには十分だよね……」

そう呟くと、少女はランドセルを開いてペットボトルを取り出す。
中身は少女が言う通りほとんど空であるが、しかし僅かにオレンジ色の液体が残っているように見える。
常人からすればそれはもう空に等しいであろうオレンジジュースだが、極小症候群患者である俺にとっては2Lのペットボトルも優に超える。

「あ、ああ……なんてごちそうだ!」

「ほんと! それじゃあ……どうやってあげればいいかな?」

「なんでもいい、何なら俺をそのペットボトルに入れてそのまま家に帰れば楽なんじゃないか?」

俺は目の前のごちそうに目がくらみ、深く考えずに答えてしまう。それが後に大きな災厄を我が身に齎すとも知らずに。

「じゃあ、貴方を入れるね」

少女は慎重に俺の身体をつまみ上げると、ペットボトルを水平にして俺を招き入れる。
ペットボトルの中は当然半透明で、下を見ると今までいた土は遥か下方に見える。目眩がしてくるが堪え、ペットボトルの奥へと歩いていく。
辺りはオレンジジュースの甘酸っぱい匂いに包まれている。そんな空間を歩いていくと奥へたどり着き、遂に待ち望んでいたごちそうが俺を待っていた。
ゴクゴクとそのオレンジジュースを飲みきった頃に、俺を待っていてくれた少女が口にする。

「もういい? それじゃあ私の家に案内するね」

そして、少女は家へと歩き出す。
ペットボトルの中は当然揺れるが、少女があまり揺れないように抱えてくれていたお蔭で不快感はあまりない。
しばらくすると、少女がドアノブに手をかけて一言。

「うちのお母さん、私に興味ないくせにうるさいから急いで部屋に入るね。揺れると思うけどごめんなさい」

口にしたとおり、少女は帰宅すると間もなく早歩きで廊下を歩いていく。それはまるで、親に何も言われないうちに事を済まそうとするかのように。

「帰ってすぐ勉強しないとね、怒られちゃうんだ」

それからと言うと、怒られないためにと黙って少女は勉強に集中した。
俺も、匿ってくれている彼女に迷惑をかけないように黙りだす。

1時間もすると、少女に異変が起こる。椅子に腰掛けたそのお尻をムズムズと揺らす少女の姿を俺は見逃さなかった……が、口にするのもデリカシーが無いので黙った。黙ってしまったのだ。

「おしっこ……」

少女は呟くが、トイレに行く様子はない。外にいるであろう親が怖いのだろうか、しばらく経っても未だその体は机の前から離れようとしなかった。

「ペット……ボトル……」

更に30分ほどすると、流石の少女も我慢が限界なのか机から離れる。トイレに行くのだろうか、そう思っていたが、どうやら様子がおかしい。
少女の身体は部屋の出口であるドアへと向かわず、ランドセルのそばに置かれたままのペットボトル……俺が入ったままのソレに手を伸ばす。

「誰も見てないし、いいよね……?」

我慢の限界が近い少女は、数刻前に俺をペットボトルに入れた事を忘れてしまったのだろう。

「待ってくれ! 俺がいる、まだこの中にいるんだ!!」

俺は当然必死に叫ぶが、目がとろんとした少女には伝わらずに無為に終わってしまった。
少女は藍色のスカートをパサりと捲りあげ、純白のショーツを晒す。
当然痴態はこれに留まらず、そのショーツも捲りあげられて少女の恥部を露出させる。
未だに毛は生えておらず、誰の手も及んでいないそこは一本のスジが入っている。

「おしっこが……飛び出さないようにしなきゃ……」

少女は自らのスジを広げ、尿道口をペットボトルの口へと添える。そして、容赦のない暴力が始まった。

「ん……!」

ジョボボボボ!!

俺の遥か上空、ペットボトルの口があったところには巨大な穴が備え付けられる。そこから溢れ出るのは黄金色の滝、小水……俺を匿ってくれたはずの救いの女神様の尿であった。
その女神は俺の入ったままのペットボトルを尿瓶代わりとし、自らの膀胱に溜まっていた小便を排尿する。
極小症候群患者は一般的に頑丈である。俺もその例に漏れず、様々な衝撃や窒息に強い体勢を持つため消防車の放水を思わせるようなおしっこの暴力にも耐えることはできる。
しかし、どうしても少女のおしっこが俺の口へと入り込みその塩辛い塩分が俺の身体を支配する。俺はついさっきまで脱水症状直前であったのだ。そんな俺に一度に多量の塩分を与えるとなると待っているのは脱水症状。
一度は偶然ながら俺を見つけてくれた少女だが、おしっこの湖に沈む俺を見つけてくれるような二度目の偶然はないだろう。
アンモニア臭の満ちた、生暖かい黄金の湖に沈んだまま俺の人生は幕を閉じた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です