淫靡なシェルター

「それじゃあ、どうぞ……臭くて暑いと思うけど私の中へ入ってくださいね」

その声を僕に投げかけるのは、同級生の柊佳菜子(ひいらぎかなこ)だ。
彼女は『ミニマムシンドローム』という、患った人間を身長0.5mmまで縮めるという奇病を治す能力を持つ、『聖女』と呼ばれる人間だ。
その見た目は清楚で非常に愛らしく、高校のクラスどころか学年を超えて学校中で話題となっている、そんなマドンナだった。
そんな彼女が、僕を目の前にスカートどころか下着……桃色のショーツすらも腰掛けているベッドへと脱ぎ捨て、自らの性器を露出させている。
既に第二次性徴は終え、その秘部には黒々と艶やかな光沢を放つ陰毛が生い茂っていた。
その陰毛で構成される密林の中心部には半透明の細長い管……尿道カテーテルが突き刺さっており、それは未だ誰の手にも触れられていない彼女の割れ目の更に内部、尿道を貫いている。
割れ目はカテーテルを挿入するためにこじ開けられており、陰唇の上部に見える小さな穴……これから僕が向かうことになる尿道口を露出させている。

そう、僕こそが彼女に治療を受けるミニマムシンドロームの患者なのであった。
ここは高校の保健室。周囲に見えるものは全て巨大で、佳菜子さんも当然巨大。だが、僕の身体は小さく、備え付けの椅子の上に立って彼女の秘部を眺めていた。

「お邪魔します……!」

ゴクリ、と唾を飲み込み僕はカテーテルの中を歩き出す。カテーテルの中は当然清潔だが、その外部……佳菜子さんの膣周りには細かい垢が見受けられる。
これから僕という人間を受け入れるために丁寧な洗浄を行った形跡は見受けられるが、こちらは非常に小さな体なのだ。細かすぎる恥垢までは見逃すことができなかった。……無論、それに言及することはないが。
歩みを進め、遂にやってきたるは佳菜子さんの尿道内部の管。
周囲は真っ赤な肉壁で包まれ、カテーテルごしに彼女の温かい体温が伝わってくる。

(はあ、これがあの佳菜子さんの体の中か……)

僕は密かに今置かれている環境に感動していた。
ここは今まで誰も入ったことのない、学校のマドンナの体内。それも、注目すらしないであろう尿道内部なのだ。
そんな前人未到の地に僕という人間が足を踏み入れたのは、胸に秘めておくべきこととは言え生涯自慢できることかもしれない。

そんなことを考えながら足を進めると、異変が起こる。
突如、周囲がグラグラと揺れたのだ。
始めは僕が何かをやらかしてしまったのか、などと心配してしまったがどうやら様子は違う。

「すごい地震だったね……そっちは大丈夫?」

佳菜子さんが気遣いの声をかける。どうやらタイミングが悪く地震があったようだ。

「こっちは大丈夫、もう少しで膀胱に入ると思うからよろしく!」

「…………はい」

沈黙の後、返答が来る。僕の「膀胱に入る」という発言で、自身の体内、それも恥ずかしい場所の一つに赤の他人を入れるという現実を思い出したのだろう。
デリカシーがなかったな、と反省しつつ歩みを進める。

暫く進むと異変を覚える。
妙に臭うのだ。それは強いアンモニアの臭い……すなわちおしっこの臭いだが、ここはまだカテーテルの中。
ならば、ここまで強い臭いが漂ってくるのは不自然である……が、それもすぐ原因が判明してしまった。
道が途切れているのだ。カテーテルによる通路はここで断絶。眼の前にあるのは真っ赤な壁……内尿道口が僕の道を塞いでいた。

「あ……まさかさっきの地震で!」

地震の揺れが原因でカテーテルが僅かに動き、内尿道口から外れてしまったのだろう。

「佳菜子さん……佳菜子さん!」

呼びかけるが、返事は帰ってこない。僕は持ち込んでいた患者用通信機のバッテリーを確認する。
……なるほど、既に電池切れというわけだ。
通常、多くのミニマムシンドローム患者は特異能力により外界と適切な声量で交流を行うことができるが、稀に意思の伝達が困難な患者もいる。
それが僕で、僕のような患者のために作られたのがこの通信機だった。
しかし、それは肝心のタイミングで役立たずとなってしまった。

「こじ開けることは……できそうにないな」

眼の前に立ちふさがる内尿道口は文字通り、膀胱への道を塞ぐ門番と化している。それをこじ開けるのは身長わずか0.5mmほどしかない僕の身体では非常に困難だろう。

「まずは……一旦外に出てどうにか今の状況を知ってもらおう」

そうして僕は来た道を戻ろうと再びカテーテルへと入り込もうとする……が。

「佳菜子さん、そろそろ学校を締めますのでお外へ出てくださいね」

「あ……はい。わかりました」

タイミング悪く、佳菜子さんは保険医から帰宅するように催促を受けたようだ。この治療を受け始めたのは既に深夜に近い時間帯。そんな時間に学校を開けてくれたので無理を言うことはできない。

「……返事がないけど、きっと大丈夫だよね」

佳菜子さんは、僕の目の前にあったカテーテルの通路を抜き去り衣服を纏う。
呆気にとられる僕をよそに外からはスカートを履く衣擦れ音が聞こえる。そして……

「さようなら、明日もよろしくお願いします」

佳菜子さんは保険医に別れを告げ、帰宅し始める。

「うおっ……と」

佳菜子さんが歩き始めた影響で、僕のいる尿道内部も当然揺れる。
しかも、今回は来たときとは違ってカテーテルに舗装されていない天然の人体経路だ。
佳菜子さんの尿の悪臭、体内の熱気に加え肉壁そのものの足場……もはや膀胱へと進むのも困難だが、外へと戻るのも厳しい。
それでも僕は外へ戻る道を選んだ。
足場は揺れ、つまずいては尿道内の残尿に顔から突っ込む羽目になってもどうにか脱出に成功した……が、そこに待ち受けていたのはどうしようもない現実だった。

「……どうやって、佳菜子さんに今の状況を伝えるか」

外に出るとここは佳菜子さんのショーツの中、声を出しても僕の身体では彼女に現状を伝えられない……
かろうじて、ミニマムシンドローム患者の特徴の一つである暗視能力は機能しているので移動に困らないのは不幸中の幸いだが。
熱気に溢れた人体サウナで思案していると、のぼせた脳がアイディアを絞り出す。

「こんなことをしたらあとで殺されるかもしれない、でもこれしかないか……」

それは、ここが佳菜子さんの膣周辺だからできる力技である。
佳菜子さんの膣へと侵入し、彼女の性感帯を刺激して存在を知ってもらう……もはや今の僕にはこれしかいい案は思い当たらなかった。

「そうと決まれば、一旦尿道から出ないと……」

尿道から出て、佳菜子さんの陰裂内部を歩いていく。
幸い現在佳菜子さんは仰向けになっているようで、彼女の陰核まで辿り着くのは難しくなさそうだ。
しばらく歩くと、そこには桃色をした球体が僅かに隆起していた。

「これが……佳菜子さんのクリトリス」

これを刺激して佳菜子さんに性的刺激を与える。それで異常を感知した彼女に僕の存在を知ってもらうのが、あの人体サウナで考えた作戦だった。
だが、叩いても蹴っても、思い切りのしかかっても佳菜子さんに異変は訪れない。
流石に噛み付けば少しは刺激があるだろう……と思って実践しても結果は無為に終わる。
……0.5mmではクリトリスを刺激することさえできないのだった。

全てを諦めた僕は、今知ってもらうのを断念し、明日の朝にかけた。
ミニマムシンドローム患者の治療法は、佳菜子さんのように『聖女』としての素質を持った乙女の膀胱内に4時間滞在することだ。
すなわち佳菜子さんが目覚めたときがちょうどいい頃合いで、そのときは僕を探してくれるだろう。
そう思って、今は佳菜子さんの陰裂というシェルターで夜を過ごすのだった。

数刻、具体的な時間はわからないが相当時間が立った頃異変が起こる。
足元から水の音がするのだ。
ゴポゴポと、ゴポゴポと……まるで湧き上がってくるかのような音が。

「この音は……?」

と、疑問に思うのも束の間。

ジョワァアアアア

近くの肌から黄金色の液体が溢れ出す。
それは陰裂内部をすぐさま満たし、波となって僕へと襲いかかる!

「ぐ、……がはっ! たす……けて!!」

黄金の波は僕の口内へと入り込み、塩辛い味と生暖かい水温をアピールする。
これはすなわち佳菜子さんの小水。突如現れた黄金水の湧き水とは佳菜子さんがお漏らししてしまったということなのだろう。
黄金色の波に攫われた僕の身体はそのまま佳菜子さんの陰裂を飛び出し、陰毛の密林へと運び出す。
そこで一本の陰毛に捕まることで、どうにかおしっこの暴力から逃れることができたのだった。

そして後日。
僕は正式に佳菜子さんの膀胱の中で治療を受けたが、結局治るには至らずミニマムシンドロームの悪性患者として余生を過ごすこととなってしまった。
唯一良かったことと言えば、僕をおねしょに巻き込んだ責任を感じたのか、はたまた羞恥心が度を超えて僕以外の男性に恥部を見せられなくなったのかは知らないが、僕と佳菜子さんがお付き合いすることになったくらいだ。
悪性患者は人によっては身寄りがなく、どのような支援を受けても酷い末路が待っていることが多いと聞く。
それならば、佳菜子さんが僕と付き合ってくれるというのはそれなりに報われた結末なのではないか、そう思って僕はこれからの生き方を考えることとした。

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