縮小魔法 前編

ボーレキングダム。ここは魔法学校の設立によって様々な魔法の研究が盛んな国である。
特に首都にある中高大一貫のボーレ学園は総生徒数が三千人を遥かに超えるマンモス校で、特徴的な学生や教員が日々学問を追求している。
しかし、在校生が多ければそれだけ問題も発生する。
ここでは中等部のとあるいじめ問題を見てみるとしよう。

ボーレ学園中等部、二年。
ここには極東の島国出身の少女が、周囲とは異なる出自が故に他の女子生徒からのいじめを受けている。

「や、やめてください。今度は何をするんですか!?」

昼休み、ちょうど昼食を食べ終わった直後の少女、ミナモ・イズミの元へ体を褐色、ガングロとも呼ばれる特殊なファッションの女子生徒が訪れる。
ミナモは故郷では巫女と呼ばれる特殊な聖職者の生まれで、魔力制御の一環としてボーレキングダムでは風変わりな、しかし着る者の清楚さを感じ取ることができる装束、巫女服を普段着としている。
様々な事情を考慮し、服装を自由としているボーレ学園内でも彼女は巫女服を着用しているが、それがよりミナモの特異性を強調してしまいいじめを助長してしまっている。

「そんな怖がらなくていいじゃない。普段から頑張ってる貴女に食後のデザートを持ってきただけよ」

そう口にした女子生徒は、手を開いてその中身を見せる。
ガングロの女子の手の中にいたもの、それは5cm程に縮められた男子生徒であった。
彼にはしゃべることができないように猿轡がされているが、助けを求めていることだけはミナモにも伝わった。

「こ、これは一体なんですか!?」

「なんですかって酷いわね。同じクラスのクリスよ。地味だからって忘れちゃうなんて呆れちゃうわ」

「そうじゃありません! 人間を縮めるなんて……」

「縮小魔法、その魔法のスクロールがね、私の家の倉庫にあったのよ」

だから、使っちゃった。
とあっけらかんとした口調でガングロ女子は語る。それは、まるでこれから行うことと比べれば大した事ではないというような、何気ない語り口であった。

「今すぐ戻してあげてください!」

「嫌よ。せっかくのスクロールがもったいないじゃない。それに、これは貴女のためよ」

「私の……?」

「ほら、貴女ってこのクラスに馴染めてないじゃない。だからほら、なんて言ったっけ。イニシエーション? をするのよ」

「…………」

ミナモはごくり、とつばを飲む。ガングロ女子からただならぬ悪寒を感じ取り、身を固めて言葉の続きを聞き取る。

「あっ、今つば飲んだわね。喉が動いたからわかるわよ。いい感じね、それならこれから行うヤツも大丈夫そうだわ」

「どういう、意味ですか……?」

「貴女には、これからクリス……だっけ? こいつを食べてもらうわ。ちゃんと食べたらもう貴女には何もしないわ」

「そんな……! できるはずないじゃないですか!!」

「本当にそんなこと言っていいのかしら?」

ミナモは反論するが、ガングロ女子は未だ余裕な表情である。それは、まるでミナモがこの反応をしてくると知っていたかのように。

「これ、なーんだ」

「!! 貴女、なんてことを……!」

ガングロ女子はポケットの中から人形を取り出す。
否、それは人形に非ず。その人形だと思われていたものはミナモの父その人であった。

「もし貴女がクリスを食べないなら、私がこれを食べるわね」

あーん、と口を大げさに大きく開きながらガングロ女子はミナモの父を口元に寄せる。

「やめてください!」

「じゃあ、わかるわね」

「わかり、ました……」

ニヤァ、と口元を歪めたガングロ女子はクリスをミナモに手渡す。

「噛み砕いても、丸呑みしても構わないけど吐き出すのは禁止ね。もしトイレかどこかに行こうとしたら私もついていくからすぐバレるわよ」

「…………ごめんなさい」

「……!! ……!!」

ミナモはクリスに謝罪するが、当然現実を受け入れられるはずのないクリス本人は必死にもがく。

「いただき……ます!」

ミナモは小さな口を開き、クリスを口内に含む。

クリスの視界に映るもの、それは暗黒……ではなく真っ赤な空間であった。
生まれつき視界が強化されて誕生したクリスはいかなる暗闇も日光に照らされているかのように明るい空間として捉えることができるのであった。
しかし、例え視界が開けていようが現在自身がおかれている現状は絶望的な世界。
食後、食べ残しが未だ残るミナモの口内。そこは非常に暑苦しく、洞窟の奥からは口臭と思しき悪臭が漂ってくる。
口内には新たな食べ物を認識したのか、隅々からよだれが湧きだし、クリスに襲いかかろうとするが、クリスが逃れようとするまでもなく状況は大きく変化した。
クリスの足元、ミナモの舌が大きく傾いたのだ。
丸呑みされる!
その危機を逃れようと必死で口外へ逃げようとするが、急斜面となった舌は容赦なくクリスをミナモの食堂へと突き落とす。
せめて、僅かなチャンスをつかもうと口蓋垂、ミナモののどちんこに手を伸ばそうとするが虚しく空振りしあえなく胃袋へと叩き落とされることとなった。

一方、胃の中にクリスを入れることとなってしまったミナモは午後の授業を受けながら、とある魔法を詠唱破棄の技術を使いながら使用を試みた。
その魔法とは、環境適応の魔法。いかなる極限地帯であっても平然と生きていられるようにする魔法である。

「(せめて、クリス君が生きていられますように……!)」

意識を体内のクリスに向け、その魔法を発動させる。
ミナモの胃の中は一瞬光り輝くが、当然体外にいる他の生徒の中にそれに気づくものはいない。

ミナモの胃の中、クリスの体が一瞬だけ光り輝く。

「(今のは……ミナモがなにか使ったのか?)」

未だ猿轡で口が封じられているクリスは、ミナモの胃液で満たされている胃袋の中を漂いながら考えていた。

「(どうやらミナモはどうにかして俺を助けようとしているのか……それなら、生きて助かる可能性もあるはずだ)」

周囲には昼休みにミナモが食べたであろう野菜や魚、それに米の残骸が漂っている。
辺りは胃液の酸っぱい、文字通りゲロのような悪臭で満たされているがこの体の主であるミナモがクリスの救出に前向きであることは彼にとって朗報であった。
自身に環境適応の魔法がかけられたのであれば、この劣悪な環境を耐えるだけで脱出できるという事実はクリスを安心させるのに十分な情報であるのだ。

胃の蠕動運動に揉まれて二時間ほど、クリスの体は幽門へと接触し、溶かされた食べ物とともにそのまま押し込まれる。
現在クリスがいるのはミナモの小腸。
そこは非常に長い経路であったが、クリスを運ぶのは様々な液体に加え、胃液によって液状化した元食べ物。
それらはクリスの体をウォータースライダーの如く流し、三時間の旅を経て大腸へと到達する。

大腸に到達してから更に数時間。
もはや液体は腸壁に吸収され、猿轡もいつの間にか取れていたミナモは腸内を歩きながら一つの事実に気づく。

「だんだん今まで一緒に流されてきた食べ物が固まってきたな……」

周囲には大腸の蠕動運動で運ばれてくる、半粥状となった食べ物の成れの果てが存在しているが、どれも茶色に変色している。

「そうか……そうだよな」

つまり、これはこれからミナモの大便として排泄されるべき汚物。
全ての栄養素はミナモの体に吸収され、もはや用済みとなったものたちである。

「臭い……これがミナモのウンコの臭いなのか」

「かわいいと思ってたけど、そんなあの子でもウンコをするんだな……」

下行結腸の崖を降りていき、クリスは行き止まりに到達した。
眼の前にあるのは粘土のように柔らかく変化した、茶色の物体。
すなわち、朝の時点で先にミナモに食べられていたもの……朝食の成れの果てである。

「これ、もう完全にウンコだよな……」

悪臭は完全に大便のソレとなり、クリスの嗅覚を襲う。だが、クリスはこれに嫌悪を覚えることはなかった。
十時間以上もの間一人の少女の体内を旅する中で、彼はミナモへの恋心を抱いたのだった。
そもそも、自身を捕食したのは確かにミナモであるが、彼女もいじめっ子のガングロ女子によって無理やり食べさせられたのだ。
もともと彼女が悪いわけではない上に、自分を助けるための魔法もかけてくれたという事実を受け止めたクリスは、ミナモに恋愛感情を持ち、その彼女が体内で作り出した汚物であるはずの大便も受け入れられるようになったのである。

そして、更に数時間経過すると、クリスは遂に直腸へと到達する。
クリスは昼食に食べられたものたちの成れの果てである、固形の大便に囲まれる形で滞在している。
人体内という熱帯サウナに数時間滞在し続けた彼だが、暑さこそ感じるもののミナモのかけてくれた環境適応魔法のおかげで生命を維持することができている。

……遂に、直腸の腸壁が振動する。
足元の肛門はひくひくと、クリスたち排泄物を外へ出そうと痙攣させる。

ゴゴゴゴ、という音とともに、後方の大便たちがクリスごと外へと押し出される。

ミチミチミチ……
ミナモの肛門は長い大蛇のような大便を外界へと産み出す。
それは途切れることなく真白の陶器の中を行き、湖の中へと降下する。

ボチャン
湖へと着水した大便は、クリスの体を開放し湖底へと沈んでいく。
クリスもミナモに助けを求めるために泳いで存在をアピールするが……

「あ……出ちゃう」

存在証明のためにクリスは頭上に顔を向けると、そこに広がっていたのは大便がへばりついているミナモの菊門、それに陰毛が生えだしたばかりで未だ誰の手も加えられた形跡がない、肌色のクレバスであった。
自慰すらしたことがない陰唇はぴっちりと閉じられているが、その中に格納されている尿道口は排便とともに緩められた膀胱頸部の奥に溜められていた尿を放出しようとしていた。

「ダメ、まだクリス君が下にいるのに……出ちゃう!!」

ジョロロロロ!!

排尿の我慢に失敗したミナモは、閉じられたクレバスの中から黄金の滝を作り出す。

「うっ、ミナモのおしっこかこれ!」

クリスは叫ぶために口を大に開いていた。つまり、ミナモの尿は容赦なくクリスの口内へと侵入する。
表現が困難な、ミナモの黄金水の味を知ってしまったクリスだが、諦めずに叫びを上げる。

「ミナモ! 俺はここだ、助けてくれ!!」

「クリス……君! ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

多くの困難を受けたクリスは無事、ミナモに助けられたが、どれだけ時間が経っても元の大きさに戻る気配はない。
後に判明したことだが、ガングロ女子がクリスに使用した縮小魔法のスクロールは呪われたアイテムで、これによって縮められた存在は永久に元の大きさに戻ることができないのだという。
その事実を知ったのはまた後だが、今二人は無事生還したことだけを祝っている。

「あの人に気付かれないように貴方は私が匿うね」

「ああ、そうして貰えると助かるよ」

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