ぎょう虫検査

僕は今、巨大な菊の門を目の前にしている。
この菊門の主は僕が片思いしているクラスメイトの矢野宮子(やのみやこ)さん。
きれいな黒髪が肩までさらさらと伸びている、日本人形のような美少女だ。
そんな彼女のアナルを目前としているのにはちょっとした理由がある。

この世界には、ミニマムシンドロームと呼ばれる病気がある。
通称「極小症候群」とも呼ばれるこの病気は、患者を問答無用で極小サイズに縮める奇病である。
現在では良性ならとある手段で治る病気だが、僕は悪性であったため治ることがなかった。
しかし、それでも学校に通って学ぶことができるよう法整備されたおかげで、苦労こそ多いもののなんとか学校に通うことができている。

ここまでなら、めでたしとまでは行かないものの悪くはない話だった。
僕が、いわゆるいじめられっ子でさえなければ。

「ねえ、海野君。君、宮子さんのことが好きなんでしょう?」

唐突に、僕のことを様々な手段でいじめている女子が話しかけてきた。
こうなったら、大体ろくなことにならない。

「そ、それが何? 君には関係ないと思うんだけど」

「へえ、そんな口聞くんだ。君みたいな小人がどんな反抗しても無駄なのにね」

「まあ、君がどんな態度でもこれからやることは変わらないしいいか」

そう言うと、彼女は僕をピンセットで摘み持ち運んだ。
僕を運んだ先は、誰もいない保健室。
明日尿検査をするって言われていたけど関係があるのだろうか……

「ぎょう虫検査ってあるよね。一昔前に廃止されたけど新しい寄生虫が発見されたからまたやるようになったっていう、アレ」

「あのシールっておしりに密着させる、とっても汚いシールだよね」

「そ、それがどうしたのさ……」

「今から君をそれに貼り付けちゃいます!」

彼女はぎょう虫検査のシールをめくり、僕を乱暴に貼り付ける。
まずい、このままでは僕は誰かのおしりに……!

「わあ、まるで君が寄生虫みたいだね」

「あ、この検査セットは宮子さん用だって。良かったね! これで宮子さんに密着できるよ!!」

そして、僕の上に再びシールを貼り直すと彼女は去っていった。
このまま誰に助けられることもなく、僕を貼り付けたぎょう虫検査シールは宮子さんへと配られてしまった。

ということがあって、僕は彼女の菊門と向き合っているのだった。
無論、大声で叫んではいるが、朝起きたばかりで胡乱な表情の宮子さんにはよく聞こえていないようで何の効果も得られない。
宮子さんの肛門からは強い硫黄のような臭いがしている。彼女は風邪を引いているのだろうか。そして、僕はこれからそんな彼女の肛門へと密着させられてしまうことを思うと目から涙が溢れてくる。

「んっ」

上からは宮子さんの声が聞こえてくるが、それにどう思うかなどという余裕は僕にはない。

ミチャア
という音とともに、僕は宮子さんの肛門の穴に貼り付けられる。
彼女がぎょう虫検査シールを押し込む力は徐々に強くなり、それに従って僕の体は彼女の肛門内部へとめり込まされていく。
まずい! このままでは直腸へと……!!

「……ふう」

その声を最後に、僕の周囲を生暖かい空気が包み込む。
最悪の事態は的中してしまい、僕は宮子さんの直腸へと閉じ込められてしまった。
ミニマムシンドロームの患者は暗所でも視界が開き、よほど環境が悪いところでも生存を可能とする特異能力を持つが、それは僕も例外ではない。
僕は酷く暑く、酸素がない宮子さんの直腸内部でもどうにか生きながらえている。
しかし、だからといって現状がなんとかなるわけではなく、鼻に入る空気はこれ以上ないほどの悪臭で、僕の目の前しばらく先には茶色い……いわゆる大便が鎮座している。
……宮子さんのウンコを見てしまうことへの申し訳無さは非常に強いが、いい予感は全くしない。

「んんっ」

体外から、宮子さんの声が聞こえてくる。
……なるほど。僕の運命は既に決まってしまったようだ。
ぎょう虫検査シール、それを肛門へと強く密着させた刺激で、宮子さんの大腸は活発化し大便を肛門へと運搬する働きが始まってしまったようだ。
ちょうど、宮子さんが今いる場所はトイレ。
であるならば、彼女を悩ませるものはなにもない。

ミチ、ミチミチミチ

宮子さんの大便は直腸壁の動きとともに僕へと徐々に近づいていく。対する僕には逃げ場など存在しない。
背後には宮子さんの肛門があるが、それはまだ固く閉じられており僕を出してくれる気などさらさらないようだ。
……それに、生きていたところで僕はまた虐められるのだ。ならば、このまま宮子さんのウンコと一緒に流されてしまっても変わらないだろう。
そう思うと、気が楽になった。さあ、いつでもかかってこい。僕は宮子さんのものであればそれが汚いウンコであっても受け止めてやる!

ヌチャア
と、遂に僕の体は宮子さんの大便に埋め込まれた。
汚い、臭い、生暖かい……いくら覚悟していたと言ってもやはり辛いものは辛い。
だが、それもすぐ終わることであった。

ミリミリミリ……
背後にある肛門は徐々に開いていき、外の光が直腸内へと入ってくる。
これから宮子さんは排便を開始する。
朝一番のそれによって、僕は徐々に下降を始める。

ブツリッ
宮子さんの大便は一度途切れ、僕を埋め込んだまま純白の陶器を汚す。
和式便所に横たわるその大便から逃れるべく僕はなんとか脱出する。
まだ悪臭が漂うとは言え、先程までとはずいぶんマシになった空気を吸い込むべく深呼吸し、上を向く。が……

ブシャァァァ
何も見ることなく、突如として黄金の水が降り注ぐ。
大きなウンコを排泄した副作用で、宮子さんの膀胱頸部筋は緩み、ウンコと一緒におしっこもすることとしたのだろう。
油断していた僕は、宮子さんの小便を直に浴びることとなった……いや、もはや今の状況ではどのような展開も避けることはできないし、体中ウンコ塗れならもはやおしっこを浴びたところでどうとなるものでもない。

「ふう」

宮子さんは一息つき、コロコロとトイレットペーパーを巻いたら排便、排尿の痕跡をなくすべく尿道と肛門を拭き取る。
それを僕の頭上へとパサっと落とすと、トイレの水を流す。

ジャァァァァ
それが、僕が最後に聞いた音であった。
耐久性が尋常ではないミニマムシンドローム患者であろうと、トイレに流されてしまっては流石に生存は不可能なのだ。
宮子さんの便とともに、僕の人生の幕は閉じた。

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