魔王の呪い

魔王城。
ここでは、救世の勇者と破滅の魔王が一騎打ちの決戦をしていた。
していた、のだった。
勇者は既に魔王の手によって息絶えかけている。

「く、だが……俺には女神より与えられた『再挑戦の加護』がある」

「お前を倒すまでは何度でも挑ませてもらうぞ、魔王!!」

「ふふふ、我が女神の加護の対策をしていないとでも思ったか」

「さあ、広大な世界で永遠に彷徨うがいい。『ミクロ・カース』!」

魔王の手が光だし、勇者を包み込む。
光が収まった頃には既に勇者の体は魔王城から退去し、再挑戦の起点……
魔王城最寄りの街である「シュリン」の教会へと転送された。

――教会――

「く、ここ……は……」

勇者が目を開ける。自身の体の傷は全て癒え、いつでも再挑戦可能な状態となっている。
しかし、様子がおかしい。

「なんだここは。いつもの教会とはえらく違うぞ」

眼の前にあるのは巨大な白い壁、そして断崖絶壁の下にはフローリングの床。

「まるで、巨大な世界みたいじゃないか……」

「魔王が俺になにかしたのか……確か、ミクロ・カースとか言ってたな。呪いの類いならちょうど教会で解呪してもらえると思うけど……」

だが、そもそも今の体で気づいてもらえるだろうか。眼の前の白い物体が布団であるならば、恐らく今の体は1cm程度しかない。
ならば、話しかけても気づいてもらえないのではないだろうか。

「ええい、それも大事だがまずは移動だ。慎重に、ベッドの柱を使って降りていこう」

――教会エントランス――

「やっぱり、全てが大きいな……」

勇者の目に映るのはやはり巨大な椅子、机、それに遥か上空の天井。
不幸中の幸いだろうか、主祭壇にはシスターの少女が立っていた。
彼女に今の状況を伝えれば呪いを解いてもらえるだろうか……

「シスターさん! 助けてください!!」

勇者は必死に叫ぶ。しかし……

「…………」

「くっ、やはり気づいてもらえないか……」

「ならしかたがない、かなり危険だが街の外の森で解呪の葉を探してくるか」

――シュリン街中――

「と、息巻いたはいいものの……」

勇者は目覚めてから二度目の試練に直面していた。
それは、尿意である。

「いくら小さな体だから気づかれないとはいえ、人の往来が多い街中で小便をするのはまずいな……」

「羞恥心については、どうせ気づかれないからどうでもいい。だが、ここまで人が多いと小便している間に踏まれてしまうぞ」

「だが、だからといって町の外はモンスターの危険で更に危ない。なら、普通にトイレを使ったほうがいいか……」

家の中に侵入して、とも考えたが流石にそれは迷惑がかかるから躊躇ってしまったようだ。
ドスン、ドスン、と巨人が足を振り下ろす中、勇者は公衆トイレを目指す。

――公衆トイレ――

「男子トイレは……こういうときに限って人が多いか。これじゃあ外と変わらないじゃないか」

「しかたがない、どうせ気づかれないし女子トイレを使おう」

勇者は、女性用のトイレ――床をくり抜くように陶器が嵌め込まれている、いわゆる和式便器に近い形状である――で用を済ませ改めて旅立つことを決意した……が

「ううっ、漏れる!」

ガタン!
と、扉を開閉する音が聞こえたと思ったら、強い振動が勇者を襲う。

「うおっ、何だ!?」

ドスン!!
と、何者かが勇者の立っている側に二本の白い柱が降り、その衝撃で勇者は吹き飛ばされる。

「うう、ここは……まさか……!!」

現状把握するべく周囲を見渡すが嫌な予感は的中し、身構える。
周囲には白く、しかしところどころ黄ばんでいる陶器、そして目の前には窪みがあり、その中には湖が形成されている。すなわち、トイレである。
上を見上げると、薄暗い中に白と水色の水玉模様の布が降りてきており、隙間からはその布、ショーツの主であろう少女のあどけない、しかし巨大な顔が姿を見せる。
ここから想像できることは難しくない。そう、少女も勇者同様小便という生理的活動を行う生物なのである。
見た目は愛らしい、思春期ほどの少女であるが、その生体構造に男女で大きな差はなく、彼女もまたおしっこをする生き物なのである。

「あれ、なにか見える……虫かな?」

「そう言えば男の人っておしっこするときに小さなものを狙うって言ってたけど、私もしてみよっかな」

「気づいてくれ! 人間なんだ!!」

勇者は必死に少女に手を振るが、まさか小さな人間がいるとは思わない少女は気にせず狙いを定める。
勇者の顔めがけて排尿をするべく、毛が生えてきたばかりの陰唇は角度をつける。
そして……

ジョロロロロォー!
水圧を強め、勇者へ向かって少女は尿を降り注ぐ。
その黄金の滝は勢いを強め、蘇生したばかりの勇者の骨を打ち砕く……

チョロロロロ……
少女の尿道より降り注ぐ黄金水は次第に勢いを弱めていき、勇者の成れの果てを流していく。
備え付けの紙を尿道口へと添え、陰唇近くや陰毛に残った尿を拭き取ると、ちょうど勇者の上に重なるように紙を落とす。
その後、少女はレバーを動かし、自らの尿と勇者の亡骸を流していく。

「ふう、すっきりした。……さっきの虫、人間の形にそっくりだったなあ」

珍しい虫がいるんだな、そう思いつつ少女はトイレを後にした。

そして、勇者は再び目を覚ます。
その世界は、やはり巨大であった。

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