聖女の内側

 この世界には、突如として身体が縮んでしまう病気が存在する。ミニマムシンドローム、日本では極小症候群と呼ばれるそれに、どうやら俺もかかってしまったようだ。

 辺りには普段は絶対に見ることができないような光景が広がっている。
 今立っている床……高校の保健室のタイルはいつもならただの茶色い床であるが、極小サイズの俺にはタイルとタイルの溝すら見ることができない。

「仁科君、こちら、準備できました。今運びますね」

 学校の保健医が準備完了の声を上げる。極小症候群は発症すると瞬く間に身長が約0.5mmにまで縮み、正しい治療を受けなければ治ることはない。
 病気そのものははるか昔から存在していたが、現代になってようやく正しい治療法が発見されるまでは大きな混乱があった。
 幸いなことに、治療に特別な薬は必要なく、条件さえ満たすことができればどこでも治療はできる。
 しかし、その正しい治療法というのが非常に特殊で、よく見つけられたなと感心する。

「揺れますのでしっかりとしがみついて下さいね」

 俺の目の前に巨大な白い棒が現れる。極小症候群を運ぶ時に使われる棒で、俺の背の半分ほどもある。……が、実際は綿棒よりも小さいのだろう。
 俺が棒にしがみつくのを保健医が確認すると、俺の身体はゆっくりと地上を離れる。そして、しばらく経つと、俺の目の前には透明な巨大トンネルが現れた。そして、トンネル越しには巨大な少女の顔が見える。目はくりっとして大きく、綺麗な黒髪は左右に短く束ねられている。
 また、彼女はとある事情からスカートをベッドの上に置き、下半身を露出している。

「仁科君、この子が貴方の治療担当者の新井恵ちゃんです。まだ小学生で、治療行為も初めてで何度か失敗しちゃうかもしれないけど辛抱強くね」

「仁科拓巳です。恥ずかしいと思うけれど、今回は俺の治療に付き合ってくれてありがとう。一緒に頑張ろうな」

 身体差から考えて普通は極小症候群患者と健常者の間でコミュニケーションは成り立たないと思われるが、患者は健常者だった時とは様々な形で変化を遂げ、声を響かせることができる。……中には響かせられない患者もいるそうで、そういった人は大抵不幸な結末を迎える。

「あ、新井恵です! 恥ずかしいですけれど病気が治せるように精一杯頑張ります!」

「じゃあ仁科君、貴方の前にあるトンネル……まあ、唯のカテーテルだけど。この道を歩いて行って」

 俺は白い棒を降り、カテーテルのトンネルを歩き出す。このトンネルの先には肌色をした壁が見える。その壁には巨大な縦筋が刻まれている。
 スケールが違いすぎるがあれは少女、新井恵ちゃんの性器である。このカテーテルはまだ毛が生えていない女性器の上部、彼女の尿道へと繋がっている。

 極小症候群の正しい治療法、それは初潮を迎えた女性の膀胱内で一定時間過ごすことである。
 それも、ただ初潮を迎えた女性であれば良いわけではない。年齢は16歳以下に限られ、かつ処女でなければならない。更に治療行為を行える者はその中でも限られており、尿の組成が特別な必要がある。
 特別な尿の組成をもつ女の子は皆美少女で、尿で治療を行うことから、一部では俗に聖女と呼ばれている。
 つまり、これから俺の治療を行う新井ちゃんは俺にとっての聖女様という訳だ。

 俺はカテーテル越しに新井ちゃんの尿道に進入する。患者は発症時の変化で新たに暗視能力を手に入れる為、普通は光が入らない尿道の中でも桃色の壁が見える。
 非常に失礼ながら、普段は絶対に見ることができない尿道の内壁を眺めながら歩いていると、俺は遂に新井ちゃんの膀胱の中へと辿り着いた。

「うっ、臭っ!」

 覚悟はしていたが、洗浄されることが無い膀胱の中はアンモニアの悪臭に満ち、俺の鼻を刺激する。いくら新井ちゃんが可愛いくとも、この中で5時間過ごすのは中々辛いものがある。
 5時間。そう、5時間である。俺はおしっこの匂いが漂う膀胱の中に5時間もいなければならない。
 それも、今は膀胱内が空だからいいが、少し経てば尿管を通して新たな尿が溜まっていくだろう。患者は非常に死ににくい身体に変化する為おしっこで溺れることはないが、だからといって不快感がない訳ではない。

 カテーテルが抜き取られ、膀胱が揺れる。新井ちゃんが歩き出したのか。彼女は俺の高校の近所の小学校から派遣されてきた。治療行為中の聖女といっても彼女たちは基本的に学生である。治療行為中でも学業活動は許可されているので、彼女もこれから小学校に戻るのだろう。
 今は大体昼の12時、次に外に出られるのは順調にいけば5時か。

 新井ちゃんの中に入ってから大分時間が経ち、膀胱の中は黄金の地底湖となっていた。生温いおしっこの中を立ち泳ぎしていると、湖に異変が起きる。
 湖に渦潮が発生したのだ。つまり、新井ちゃんは今排泄中で、俺は外に出られるということだ。
 渦潮の流れに身を任せると、勢いよく尿道を通過し、薄黄色に染められた冷たい湖へと投げ出される。……なにか違和感がある。
 極小症候群患者を排泄する際には最後の工程の為にもおしっこは大容量タッパーに放尿される。しかし、今俺の周りはプラスチックではなく、真っ白い陶器で覆われている。
 湖の前方には白い段壁で、上を見上げると逆さまの丸い山が二つ、その前からは光が差し込み、俺が出てきたであろう場所からは水滴がぽたぽたと落ちている。
 詰まる所、新井ちゃんは尿意に耐え切れず、急いでトイレに飛び込みおしっこをしたということだろうか。
 結論を導き出すと湖に影を作る山が消え、代わりに少女の可愛らしい顔が陶器を塞ぐ。

「ご、ごめんなさい! 私、どうしても我慢できなくて!」

「大丈夫、初めてなんでしょ? なら仕方ないよ」

 5時間だもんな。頻尿じゃない人でも日に多くて8回はおしっこをするらしいし、少ない人でも4回、最長でも6時間に1回はおしっこをする。1回で成功しなくてもおかしくはない。

「とにかく、保健室に連れて行って欲しいな。君が良かったら治療を続けて欲しい」

「わ、分かりました。すぐに行きましょう!」

 新井ちゃんは便槽に右手を入れ、俺の体を掬った。そして、うっかり落としてしまわないように左手で右手を覆い、保健室へと駆け出す。

「失礼します」

「新井ちゃんね。確か近くの高校で極小症候群患者の治療に行ってたんだっけ。上手くいった?」

 小学校の保健医の声が聞こえる。若い女性の声だ。

「それが、どうしてもおしっこが我慢できなくて……」

「あー、出しちゃったのね? 初めてなんでしょう? ならしょうがないわよ。仁科さん、でしたっけ。ごめんなさいね、もう少しだけこの子に付き合ってあげて下さい」

「いえ、俺も治してもらっている立場ですし。それに彼女が大変なのもわかりますから」

「そう、じゃあ続けましょうか。新井ちゃんもそれでいい?」

「はい、お願いします」

 そして、俺は再び空っぽになった彼女の膀胱に進入する。
 また5時間、俺はこの子の中で過ごすことになる。そう、また5時間なのだ。この治療は合計5時間ではなく、連続して5時間。その間ずっと膀胱内に止まらなければまた一からやり直しである。
 途中で他の聖女に治療に回ってもらってもいいのだが、この地域の聖女は現在この子だけだし、そんなことをしたら彼女のプライドが傷つくだろう。小学生相手にその対応は残酷に思える。

 しばらくすると膀胱内の生暖かいおしっこの湖が更に暖かくなり、まるでお風呂のようになった(いくら暖かくとも、おしっこ風呂では全く心地良くはないが)。
 正直な話、このような形で女の子と混浴などしたくはなかった。

 それから更に時間が経つと、膀胱の壁の近くで異音が聞こえる。

 ミチ、ミチミチミチ、ブリリリリ、ボトン! ミリ、ミリ、ポチャン!

 どうやら新井ちゃんはウンチをしているようだ。彼女の恥ずかしい排泄行為の音を間近で聞いてしまい申し訳なく思うが、俺が彼女のおしっこの海にいる以上今更なことだろう。
 だが、異変はそれだけでは終わらなかった。俺が漂う黄金の海に再び渦潮が現れる。今度こそ5時間経っていれば良いのだが。
 そんなことを願いつつ、俺は彼女の外へと排泄された。

 俺が放り出された場所、それは半透明な巨大タッパー……ではなく、辺り一面に広がる茶色い山の上であった。すっぱい匂いがする。まさかここは新井ちゃんのウンチの上、ということだろうか。俺は頭上から降ってくる巨大な水滴を身に受けながら考える。
 湖を覆う影が消え、小学校の時と同様に新井ちゃんの顔が俺の頭上一面に映し出される。

「ごめんなさい! わたし、その、ウンチをしたら気が緩んじゃって……それで」

「ああ、わかった。また頑張ろう、な」

「本当にすみません、今手を差し出します!」

 そういうと俺の近くに巨大な手のひらが差し出され、俺は彼女のウンチの上から飛び乗る。
 おしっことウンチで汚れた身体を洗って貰い、学校から貰ってきたカテーテルを通して、新井ちゃんの膀胱へと3回目の進入を行う。そろそろ寝る時間だろうから、次に外に出るのは朝になるだろう。きっと、今度こそ成功する筈だ。

 どれだけ時間が経ったかわからないが、新井ちゃんの膀胱の中で再び渦潮が発生した。朝に、なったのだろうか。今度は大丈夫、期待を胸に俺はおしっこの奔流により、尿道を抜ける。
 しかし、そこに湖は広がっていなかった。ここはタッパーでもなければトイレでもない、新しい場所であった。

(どこだろう、ここは)

 疑問に思い辺りを見回す。地面は肌色の大地で、下を向くと見えたのは、カテーテルのトンネルを歩く時に必ず見かける肌色の巨壁と、それに刻まれたクレバス。
 これは新井ちゃんの性器だろう。しかし、今までカテーテルの中で見た時とは違い、濡れている。
 次に天井を見上げる。そこに見えたのは白い壁である。こちらも濡れているようで、水滴が落ちてくる。
 この壁は新井ちゃんの肌と密着しているようで、少し歩けば今の俺でも触れる箇所がありそうだ。
 白い天井を触れるところを見つけ触ってみると、弾力を感じた。石の壁ではないようだ。改めてよく周囲を観察してみると、この壁はどうも繊維のように広がっている。
 新井ちゃんの性器に密着する天井、濡れている肌と白い壁、繊維のような壁。ああ、察しがついてしまった。

「おもらし、かあ……」

 俺はため息を吐いた。また5時間やり直しである。先程まで仮に5時間膀胱内にいたとしよう。しかし、治療はそれだけでは終わらないのである。
 5時間患者と共に膀胱に溜め込まれたおしっこをタッパーなどの容器に放尿し、そのおしっこの中でさらに10分程漂って初めて一連の治療行為が成功する。だから、これではまたやり直しである。
 仕方がない、新井ちゃんが起きるまで待っていよう。

 俺が立っている肌色の大地が垂直になり、俺はショーツの生地へと放り出された。

「ぁ、ああ、漏らしちゃった……! ごめんなさい、ごめんなさい! 私、私……うわああん!!」

 目が覚めた新井ちゃんは謝罪の言葉と共に声を上げて泣き出した。何度も失敗し、挙げ句の果てにおもらし。尊厳は消え去ってしまったのだろう。
俺は彼女が泣き止むのを待ってから切り出した。

「ショックだろうけど、とりあえず学校に行こう。それで、また挑戦しよう」

「でも、私、何度も失敗して……」

「俺は大丈夫だから安心して。それに、5時間おしっこを我慢できなくてもおかしくはないんだ。だから失敗してショックを受ける必要なんてないよ」

「ごめんなさい、私、また頑張ってみます……!」

 俺たちはまた新井ちゃんの小学校の保健室に入り、4度目の挑戦を行う。そして時は経ち黄金の湖に渦潮が生まれ、俺を外へと流し出す。
 そこで見たのは濃い黄金の湖で、周りは白みがかった半透明なプラスチックの壁で覆われている光景だった。
 頭上では念を入れるかのように性器からおしっこの粒が絞り出される。それは幾つかが俺の身体を包み込むが不思議と不快ではない。
 成功、したのだ。新井ちゃんはおしっこを5時間我慢し、そのおしっこと共に俺をタッパーに放出した。歓喜のあまり声を上げる。

「成功、したのか!?」

「はい、ちゃんと5時間我慢できました! もう、大丈夫です! ありがとう、ございました!!」

 その後、新井ちゃんは俺の入ったタッパーを保健室に運び、俺が元の大きさに戻るのを待ってくれた。
 元の大きさに戻った俺は当然全裸だったが、新井ちゃんは恥ずかしがらずに俺に抱きついてきた。その日は学校に緊急用の服を借り(多くの患者は学校や病院で元に戻るので、様々な大きさの服が常備されている)、自宅へ帰った。

 この件以来、新井ちゃんは俺に懐いたようで、偶に一緒に遊ぶようになり、彼女が中学校に上がる頃には隠れて交際を始めた。

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