サイズ魔術師と巫女さん(サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年5月号のサンプルその2となります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
先月の「サイズ魔術師のミクロサービス」と同じ世界観ですが、独立して読むことができます。

https://fantia.jp/posts/1294693

 僕は今、魔術師ギルドの卒業課題としてシロという魔術師の店で住み込みで働いている。
 彼女は僕よりも若い少女であるにも関わらず、新たな魔法を生み出したことを実績に自らの店を構えている天才少女である。
 その店こそが、「シロのサイズ魔術工房」。
 シロ師匠と僕は、そのサイズ魔術というものを使って様々な客の悩みを解決する日々を送っている。
 そして、今日もまた一人悩みを抱えた客が訪れた。

 チリンチリン、という鈴の音が店内に響き客の来訪を知らせる。

「ごめんくださーい」

 チャイムと同じく、鈴を転がすような声色の少女が店内に入る。
 腰まで長く伸びた、艶やかな黒髪。この国では珍しい色だが、風変わりなのはそれだけではなかった。
 白く厚い衣服に、朱色で折り目が目立つスカート……東洋の神官、巫女と呼ばれるものだろうか。
 そういえば最近、この街に東の国から旅人がやってきたと聞いたが、この少女がその人なのだろうか。

「はーい、いらっしゃい」

「あ、あの……シロのサイズ魔術工房というのはここであっていますか?」

「はい、そうですよ」

「良かったあ~」

 控えめな様子で尋ねる少女。どうやら、彼女が今回の客らしい。

「それで、どのようなご要件でしょうか?」

「え、えっと……その……」

「あー……僕には聞かせられない話、かな?」

「実は……そうなんです」

 参ったな。“下”の話はシロ師匠が仲介する案件だ。
 しかし、困ったことに師匠は今よその街にでかけている。

「女性の店員……師匠は出張中でして。どうしても僕に聞かせられないなら、話は後日となりますがよろしいでしょうか?」

「うっ……い、今すぐお願いします!!」

 僕の提案は断られてしまった。どうやら彼女は相当急いでいるようだが……。

「……わかりました。話を聞きましょう」

「私、東国の“日の国”から旅をしている巫女なのですが……」

「はい、お名前はなんでしょうか?」

「サツキといいます。それで、その……この国の文化に馴染めなかったといいますか」

「文化?」

「私の国ではお手洗いの際、専用の穴に用をたすのですが……」

「それはこの国では珍しいですね」

「こちらでは、壺に溜めて野外に捨てる、と聞きました」

「そうですね。それが一般的です」

「それで……恥ずかしくてあまり用をたせなくて」

「なるほど、困ったことになったと」

「はい。今ではおしっこを溜めすぎて、下腹部が痛く」

 なるほど、おしっこの我慢で膀胱炎か。
 異文化というのも難儀なものだ。

「なるほど、それならこの魔術工房に頼ってくれて正解ですね」

「そう、なんですか? 確かに街の人も、身体の不調ならこのお店がいいって言っていましたが」

「はい。この店では師匠が開発したサイズ魔術で小さくした店員を患者の体内に入れて、内側から癒やすのです」

「そんな、まるでおとぎ話みたいなことができるのですね」

「いつもなら師匠と僕で手分けしてあたっていたのですが、どうやら急ぎのようですし僕だけで治癒にあたりますね」

「その、具体的にはどのような?」

「サイズ魔術を僕自身に使って、貴方の膀胱……おしっこを溜める場所に入らせていただきます」

「えっ……」

 サツキさんは顔を赤らめる。どういうことか、想像してしまったのだろう。

「恥ずかしいかもしれませんが、治療のために必要なことです。どうか、ご理解ください」

「わ、わかりました……」

「それでは、治療の前に膀胱を空にしましょう。お手洗いへどうぞ」

「あ、あの……」

 トイレに案内されたサツキさんは、不安そうな声を出す。

「出したおしっこは、どうするのでしょうか?」

「それならご安心を。容器にまとめて、浄化します」

「それなら良かったです……」

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