fantiaの500円プラン作品2021年9月号その3のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/917374
縮小訓練場は運動場から少し離れた森の側に作られた、小さな運動場だ。
だが、ミニマムトンネルというマジックアイテムを使えば身体を非常に小さなものとすることができる。つまり、実際に運用する上では大きな運動場ということだ。
更に、ミニマムトンネルによって小さくなった生物は平時よりも頑丈になるのだとか……もっとも、それは小さくなっている間だけの保険で、もとの大きさに戻れば当然解けてしまう程度のものだが。
だから、小さな体ながら野外で安全に訓練を続けることができるというわけだ。
小さな体で走る屋外は、小石ですら大岩のような迫力を出し、雑草に至っては神話に語られる世界樹の如き威容を誇っている。
このような大スペクタクルな環境で訓練を続ければ、肉体的な成長のみならず、多少のことでは動じない精神力も期待できそうだ。
だが、油断は禁物という言葉を僕は忘れていた。
背後に忍び寄る巨大モンスター……いや、それはモンスターでもなんでもないただのカマキリ。
まるで全長2mのジャイアントマンティスすらただのカマキリだと言わんばかりのカマキリは、気配を殺して僕にその鎌を振るった。
「ぐあああっ!」
吹き飛ばされる僕。斬撃による殺傷力はミニマムトンネルの保護能力で殺しているが、衝撃までは殺しきれないし、保護能力も完璧というわけではない。
「に、逃げないと……!」
縮小訓練施設における非常時の例では、たしかに野生生物の侵入が懸念されていたが、僕はすっかり忘れていた。だから、逃げることに必死で推奨される避難経路までは抜けてしまってた。
「っは、っは!」
迫りくるカマキリから逃げるべく、がむしゃらに走り続ける。だから気づかなかった。
いつしか周囲の光景は縮小訓練場のものから、より自然溢れる緑の世界になっていたことに。
「も、もしかして……訓練場から逸れちゃった!?」
ここは……旧校舎のある森の近くだろうか。まずい、逃げることに必死過ぎて、まずはミニマムトンネルで元の大きさに戻ることを忘れてしまっていた。
だが、愚かな僕を逃さんとカマキリは容赦なく近づいてくる。
「誰か……助けて!」
顔を伏せながらそう願う僕に、救いの神は現れた。
ズシィィイイン!!
「え……?」
カマキリのいた方に振り向くと、そこにあったのは黒革の壁と巨大な柱。
そして、更に振り返るとそこにも同じく、壁と柱。
壁から一定の高さまでは白い布のようなものが柱を覆っており、そこから上は肌色のような壁の柱だ。
更に上を見上げると、チェック柄のカーテン。その内側には巨大ないちごが描かれた布の天井……?
いや、違う。これは人だ! 女の子がここにやってきたんだ!
「ううーん、明日の実習で使う薬草を探しに森に来たのはいいんだけど……」
と、どうやら彼女は素材探しで旧校舎近くまで来たのだ。そして、偶然にもカマキリを踏みつけた。更に僕を踏まなかったのは完全に幸運だろう。
「どうしよう、トイレ……ここしかないんだよね」
トイレ?
そう言われて周囲を見渡すと、僕がいる大地はたしかにくぼんでいる。そういえば、旧校舎のトイレは屋外でくぼんだところにするのだと聞いたが、まさかそういうことなのか!?