お昼ごはん(友奈のお昼ごはん小説版・サンプル)

fantiaの100円プラン作品2021年6月号のサンプルとなります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/770294

 チャイムが鳴る。授業終了とともに、お昼ごはんの許可を告げる、正午の響きだ。
 このチャイムは俺の通う学校のもので、本来なら俺もこの音とともに昼食を食べていたはずだ。
 しかし、なんの因果か俺の周囲は暗黒に包まれており、そして妙にいい匂いが漂っている。
「わーい、昼休みだ! お弁当食べよう!!」
 この空間の外から、少女の声が聞こえる。この声は同じクラスの彩花さんのものだっただろうか。
 声の主を探る間もなく、天井が開く。先程まで暗黒世界だったこの空間に光が差し込み僅かな時間、俺は目が眩んでしまった。
 だが、驚くべきことはそれだけではない。
 なんと、天上のあった場所からは巨大な少女の顔……他ならぬ、先程の声の主の彩花さんの笑顔が新たな天上として俺の視界を埋め尽くしたのだ。
 差し込んだ光を頼りに周囲を見渡すと、巨大な卵焼きらしき黄色い帯に、巨木の如きブロッコリー。そして白米の山が。
 この状況から察するに……。
「どういうことかわからないけれど、俺は小さくなって彩花さんの弁当箱の中にいる!?」
 理解も納得もできない。だが、状況は待ってくれないようで。
「あーん」
 彩花さんはその手に持った巨大な2本の柱……信じられないほど大きな箸で俺をつまみ、口に含む。
「(う、口臭が……)」
 普段の会話では気にならないが、ここまで小さくなった身体で、しかも口の中に直接となるとどうしても気になる臭い。
「んっ」
 だが、俺を待っているのは悪臭だけではなく、奈落の底へと運ぶ蠕動運動。つまり、俺は完全に食べ物として胃の中へと叩き落されたということだ。
「ま、不味い。ここは……」
 暗黒の世界、文字通りゲロのような刺激臭が漂うこの空間はまさしく地獄の釜。
 外から見れば可愛らしく、優しげな印象を与える彩花さんの体内。投げ込まれた全てを消化する胃。
「溶ける、溶け……!」
 どうしようもないながらも、現実逃避にじたばたするが、違和感がある。
 足元に浸かり続ける胃液の海も、胃壁から染み渡る胃酸の雨も、俺の身体を溶かすことはなかった。
「一応、生きているのか?」
 だが、安心はいっときのものでしかなかった。

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