この物語はフィクションです。
現実に存在するあらゆる施設、団体、病気、人名とは一切の関係を持ちません。
予めご留意ください。
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現在は2120年。
科学は空想とされていた様々な技術を実現し、ファンタジーを現実のものへと落とし込んだ。
そんな世界の、とある病院の一幕。
「愛さん、どうぞ入ってください」
看護師が患者を招き入れる。
ここは都内の大学病院。そこにある泌尿器科の医師が私である。
「田辺愛(たなべあい)さん、どうしました?」
目の前に射る少女、田辺愛さんが今回の患者である、14歳の少女だ。
「それが……その……」
「あー、金田先生、愛さんはおしっこをするときに激痛がするそうです」
側にいる看護師が、声に詰まる少女のフォローをする。
「ああ、なるほど。レントゲンを撮らせてもらったけど……君は尿路結石のようだね」
「尿路……結石ですか……?」
「ああ、おしっこを出す管、尿路に結晶のような石ができる病気で、本来なら太っている人に多いんだけど……」
私は彼女を観察し、口にする。
「見た目でも君は痩せているし、検査結果も悪くない。原因は現時点では断言できないね」
「そう……ですか」
「この病気はおしっこをする度に激痛がする、厄介な病気なんだ」
「どうすれば、いいんですか?」
「根本的な解決には生活改善が必要だけど、今ある結晶を砕くだけなら難しくはないよ」
「私が、小さくなって君のおしっこの穴に入って直接石を砕けばいい」
「えっ、そんな……」
彼女は顔を赤くし、恥ずかしそうにする。
言っておくが、これは決して性的な理由ではない。
体内治療確立前は体外衝撃波結石破砕術という形で安全な医療もあったが、更にスピーディな医療を行うため、患者の事前準備を不要としたのが体内に直接医師が侵入して治療を行う手術であった。
「す、すぐに終わるなら……お願いします……」
彼女はこれ以上、尿路結石の痛みを感じたくないからか私の提案を受け入れた。
そして数時間後、可能な限り小さくなった私と複数の看護師、そして愛さんは手術室にて立ち会う。
私は看護師の手のひらに乗せられ、愛さんの尿道へと接続されたカテーテルへと足を踏み入れる。
「それじゃあ、これから君のおしっこの穴に入るよ。そこで膀胱まで言ったら石を砕くから、後はコップの中におしっこをしてくれればそれで終わりだよ」
「うう、やっぱり恥ずかしいです……でも、これで終わりならお願いします」
私は透明なカテーテルの中を歩き始める。
周囲は綺麗なピンク色の艶めかしい肉癖で囲まれており、とても患者の体内とは思えない幻想的な風景である。
しかし、これは医者である私には既に見慣れた光景であり、本番はここの先、愛さんの膀胱内である。
管の出口、患者である愛さんの膀胱、ここには手術前に放尿しきれなかった愛さんの小水が黄金色の水たまりとして残っており、上部の尿管からは黄金の滝としてポチャポチャと小さな音を立てながら私の足元へと滴ってくる。
周囲からはドクン、ドクンと彼女の体内を流れる血流の音が絶え間なく聞こえ、まさしくここは人間の体内であることをまざまざと教えてくれる。
少女の体温とアンモニア臭に包まれた密室、36度の人肌で暖められ続けた生温い尿、この環境下で私はこれから作業するのであった。
「さて、人間の体は気まぐれだ。結石を砕ききる前におしっこと一緒に流される、なんてことがないように急がないとな」
そんな独り言をして、私はドリルを回し始める。
私が手に持ったドリルによって、黄土色の石は粉々に砕かれていく。
そして体中を汗とおしっこまみれにしたかいがあったか、全ての結石は姿を見せなくなり、後は愛さんのおしっことして体外に排泄されるのみとなった。
ちょうど、この空間には既に多くの尿が溜まっており黄金の湖の姿を表していた。
「その……おしっこをしてきてもいいですか?」
愛さんの声がこだまする形で聞こえてくる。
「いいですよ。ただ、尿検査と違っておしっこは最初から最後まで出してくださいね。それと、トイレの水も流さないでください」
「わ、わかりました!」
黄金の湖が巨大な振動により大きな波を立てる。
その影響で愛さんのおしっこが私の口の中に入り込む。仕事上、様々な形で患者の尿を飲んでしまうことがあるが、やはりこれに慣れるということはないだろう。
ジョボボボボ……
水流が滝壺へと落ち行く音と共に、尿道へと続く孔が開き渦を作り出す。
無論、私もそれに巻き込まれる形で排泄される。
そして、数時間ぶりの外界――紙コップの中である――。口に含んでしまった尿を吐き出しつつ、黄金水のプールから顔を出す。見上げると、周囲の純白の壁を塞ぐように肌色の天井がある。
縦スジ、そしてその上部の孔からは未だ膀胱に残る小水を放出するために黄金の滝が流れ続ける。
瞬く間に水位は上昇し、私の体は再び尿道に侵入するか、と言ったところで滝は水を放出するのをやめた。
縦スジを覆う、うっすらとした陰毛には小水がまだ残るが、私が入った紙コップを個室内の検査用コップを提出する棚に置くと、トイレットペーパーで尿を拭く音が聞こえ、そして衣擦れ音がすると退室したようだ。
……これで、この何でもない私の仕事はひとまず終わりである。
2120年、世界からは様々な仕事が失われ、新たな仕事が生まれていく。