バレンタインに合わせて書いた、状態変化系の小説です。
今回は最後まで無料です
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地味田普通男(じみだふつお)。名前からして地味でモブな俺に春がやってきたのは2月に入ってからだ。
「普通男くん、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」
今まで女子からは存在すら認識してもらえなかった俺に、声をかけてくれる子がいた。
それも、彼女は桜田楓(さくらだかえで)。クラスで一番可愛いと評判で明るい性格から男女ともに評判のいい完璧人間。
まさか告白されるということはないだろうが、この手伝いとやらを通して正式なお付き合いもできる……かもしれない。
ともあれこれはチャンスだ。我が世の春を逃さぬために、多少の手間は惜しまず彼女に協力しよう。
「ああ。いいよ。なにをすればいい?」
「普通男くんはなにもしなくていいよ。ただ、材料が欲しくてね。普通男くんならちょうどいいかなって」
「ちょうどいい材料? 一体なんの……」
疑問を投げかけた瞬間、目の前が光る。
「うわっ! 桜田さん、なにを……」
光に目が慣れ、周囲を見渡すが、どうも様子がおかしい。
視線がさっきまでより低く、まるで机に顔を乗っけた状態で前を向いているような……。
それに、視界もガラスのようななにかで塞がれてぼやけて見える。
「うん、上手くいって良かったあ」
上手く? なにが成功したのだろうか。俺の違和感に関係があるのか?
それを口にして聞き出したいが、妙だ。言葉が喉から出てこない。
「あっ、普通男くん。今の自分の状況を理解できてないんだね」
状況……やっぱり、自分はなにかをされたのか。
「普通男くんはね。私の魔法で牛乳になったんだよ」
牛乳……牛乳!?
あの牛が出す白い飲み物だろうか。いや、それ以外ないだろう。
「倉庫に眠ってた魔法薬のレシピ、色々無茶なものが書かれていてね。例えば人間を原料にした牛乳とか」
魔法薬。桜田さんが胡散臭いものを頼るのは意外だが、俺の今の状態が“魔法”は真実のものだと告げている。
「私、内海ちゃんに告白したくてね。それで惚れ薬を作りたいんだ」
内海ちゃんというのは、同じクラスの内海空(うつみそら)さんだろうか。大人しく、小動物のような印象の小柄な少女。
まさか桜田さんにソッチのけがあったとは思わなかったし、そのために惚れ薬を作ろうとは想像できない。
「だから、貴方は惚れ薬の材料として牛乳になってもらったの。これからチョコと混ぜるから、目を回さないようにね」
ケラケラと笑いながら、桜田さんはどこかへ歩いている。
その手の内側には、俺という牛乳が入ったガラスコップを持って……。
食材を持って行く場所といえば、調理室なのだろう。問題は、その食材は他ならぬ俺だということなのだが。
「さあて、これから一仕事頑張るぞ! おーっ!!」
誰もいない調理室。一人で張り切る少女。しかし、彼女がこれから行う行為を俺は知っている。
「チョコはもう刻んでるし、あとは君を鍋に入れて混ぜるだけだね」
そうして鍋に注がれる俺という牛乳。加熱される鍋。
熱い、熱い!
「そして、チョコを混ぜてっと」
空から降り注ぐ、刻まれた多数のチョコレート。
しかし、空から降りてくるのはチョコレートだけではない。
桜田さんの巨大な手が握っている泡だて器は、鍋の中にある俺とチョコレートをかき混ぜて一体化させようとする。
目が回る。しかも、違和感は視界だけではなく身体の構造そのものがさらなる変化を受け入れようとする異物感も。
チョコレートの一欠片一欠片が俺になじんでいくたびに、俺は人間から更に遠ざかっているような、致命的ななにかを受け入れてしまっていた。
それから十数分ほど。しっかりとかき混ぜられたチョコレートと俺はもはや人間の面影などなく、立派なホットチョコレートになっていた。
「かんーせいっ! それじゃ内海ちゃん呼んでこよっと」
熱々のホットチョコレートに埃が入らぬよう、鍋に蓋をして少女が去っていく。
俺を飲ませる少女を呼ぶために……。俺に残された時間は残りわずかだが、ホットチョコレートになったこの身体では未動き1つ取ることはできない。
それに、少女たちが戻ってくるのも結局時間はかからなかった。
どうやら内海さんも隣の教室で待っていたらしい。
「わあ、これが桜田さんが作ったホットチョコなんですね」
丁寧な口調で話す内海さん。
蓋が取り払われ、鍋の外を見ることができるようになった俺の視界には、内海さんの愛らしい顔が一面を覆っていた。
「うん、友チョコってやつ。内海ちゃんに飲んでもらおうと思って作ったの」
「ありがとうございます! とっても美味しそうです」
「作りたてだから火傷しないようにね」
桜田さんは鍋からコップに俺を注いでいく。
そして、そのまま内海さんに手渡すと、コップの縁からふうふうと強風が吹きかけられる。
当然これは自然の風ではない。内海さんが、火傷しないように俺を冷まそうとしているのだ。
「それじゃあ、いただきます」
そうして内海さんはコップを優しく傾けて、中のホットチョコレート……俺を体内に取り入れていく。
俺の視界は内海さんの真紅の口内を駆け抜けそのまま喉の奥へ。そして、食道を降下して胃袋へと流れ落ちていった。
内海さんの体内に入ってからはあっという間で、胃袋に送られた俺はそのまま流体の身体が十二指腸まで流されていき、水分や栄養として腸壁から吸収されてしまった。
そうして6時間ほど経った頃だろうか。俺は、ある場所で漂っていた。
黄色い液体で満ちた湖。
湖底にはすぼんだ箇所があり、壁に空いた穴からは同じく黄色い滝が少しずつコポコポと流れてくる。
ここは生物や保険の授業で聞いたことがある、膀胱という臓器だろう。
ホットチョコレートとして飲まれた俺は、そのまま内海さんのおしっこになってしまったのだ。
膀胱壁の外からはザァザァと血液の流れる音が聞こえ、そしてそのさらに外側からは足音が聞こえてくる。
とんとん、とテンポの良い音が途絶えると、扉の開く音。そして、なにかの蓋が開かれる音が聞こえてきて……そして、湖面に穴が空いた。
ジョワアアア……!!
内海さんが排尿を始めたのだ。
膀胱に溜まっていたおしっこは螺旋を描いて大概に排泄され、俺も当然その流れに乗って外へと出ていく。
女の子の短い尿道はあっという間に過ぎ去っていき、俺は淡黄色に濁りつつある湖へと投げ出された。
ジョロロロロ……。
おしっこは少しずつ止んでいく。
最初は滝のような勢いだった放尿も、いつしかポツリポツリと水滴を落とすのみで、意識を上に向けると巨大な逆さ山に、白い紙を持った大きな手をあてがう姿が見えた。
股間に残った水滴を優しく拭き取ったのであろうトイレットペーパーもまた、この淡黄色の湖に落とされていく。
排泄を終えた内海さんは最後に一言「なんだかホットチョコを飲んでから、桜田さんが気になるなあ……」とだけ言い残すとトイレのコックをひねり……俺はこの世から完全に意識を手放した。
トイレに残ったのは、内海という少女の尿となった少年が螺旋を描いて下水に流れていく様子のみ。