fantiaの500円プラン作品2021年4月号のサンプルその2となります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/1238382
シロのサイズ魔術工房。
僕が住み込みで働いている店の表には、そのような看板が掲げられている。
シロとは僕のお師匠様のことで、魔術師ギルドの卒業課題をもらうために彼女のもとで仕事を手伝っている、というわけだ。
師匠といっても見た目は僕と同程度か、少し若いくらいの女の子で、魔術師特有の若作りでもなく純粋に実力で若くして自らの店を構えた天才少女だ。東洋の言葉で「白色」を意味する名前の通り、清潔な白髪を肩まで降ろした女の子。それがシロ師匠だ。
そして、この店で取り扱っている商品こそがシロ師匠の編み出した新魔術、サイズ魔術……術の対象を大きくしたり小さくしたりする特殊な魔術を利用したサービスだ。
そんなすごい魔術師の店で助手を務めさせてもらっている現状に誇りを感じているが、困ったこともある。それは……。
チリンチリーン。
と、思案していると店の外から客がやってきた。
店である以上、お客さんが来なければ話にならないが、これこそが僕の悩みのタネである。
「いらっしゃいませー」
と、応対はするが内心は憂鬱。できるだけ無難な依頼ならいいのだけれど……。
「おや、君がシロって人かい? 困ったな、ここのお店の店長は女の子だって聞いたけれど……」
店長をご指名。これはナンパ……などということではなく、おそらく男の僕には聞かせたくないデリケートな話題だろう。
つまり……僕がもっとも避けたい部類の依頼だ。
「お師匠様ー、呼んでますよー!」
と、店の奥に呼びかける。シロ師匠は基本的に店の応対を僕に任せており、こういった“デリケート”な話題でなければ依頼を受けるかどうかさえも僕に一任されている。
「はーい、今行くねー」
幼く、呑気な声が返ってくる。それから1分も経たずに、師匠が店頭へと姿を表した。
薄茶色のブレザーを着た清楚な白髪の少女。視線を落とすと頭頂部から足元までストンと見え、僕の肩に頭を並べる程度の小柄な彼女は、清潔なイメージカラーとは反してだらしなく髪をボサボサに、手先も袖の中に入れっぱなしだ。
これがシロ師匠の現実。天才少女は天から魔術の才を与えられた一方で、生活力は皆無なのだ。
「ああもう、お客さんの前なのにだらしないですよ!」
「ええーっ、サイモン君が髪梳かせばいいじゃんー」
「櫛なら部屋にあったでしょうに」
「サイモン君の手櫛がいいのー」
「まったく……」
言われて、仕方がなく僕は師匠の髪を梳かす羽目になった。最低限、髪の洗浄だけは欠かさないため彼女からはほのかにいい匂いが漂っているが、果たしてお客さんの前でやることなのだろうかと疑問に思う。
「あの……よろしいでしょうか?」
案の定、お客さんは困惑していた。駄目だったようだ。
「大丈夫ですよー。ご依頼をどうぞー」
呆れられているにも関わらず、相変わらず呑気な応答をする師匠だが、お客さんは真剣だ。
「いえ、できれば男性の方には聞かせたくない話ですので……」
「……ああっ、そういうことー!」
「なので、僕は席を外しますね」
「はーい、また後でねー」
それから数十分ほど経っただろうか。僕はシロ師匠に呼び出される。
「サイモンくん、今日は女の子の膀胱をケアして欲しいんだってー」
「……依頼人の人は、僕に聞かせたくなかったんじゃないですか?」
「でも、聞かせちゃ駄目とは言ってないよー?」
「……まあいいです。どうせ膀胱に入るのは僕ですし」
「ごめんねー。サイズ魔術は私自身には使えないからさ」
そう、僕が依頼を憂鬱に思う理由はこれだ。
サイズ魔術を利用したサービスを経営している師匠だが、彼女の魔術は自分には使えない。だから、必然的に助手……つまり、僕が実働に動くことになる。
そして、サイズ魔術の依頼は大抵重労働か……今回のような、下の依頼だ。つまり、デリケートなものに関わるとなると気が滅入るのだ。
「依頼人には、実際に膀胱に入るのは僕だって伝えたんですか?」
「伝えてないよー?」
「なんでですか!?」
「だって、絶対に面倒になるじゃんー」