魔女の罠(サンプル)

fantiaの500円プラン作品2021年3月号のサンプルその2となります。
本投稿では作品内から一部分を抜粋しています。
https://fantia.jp/posts/1192644

「これは……一体どうなってるんだ!?」

 俺は王国騎士団長のテイラー。人間やエルフ、ドワーフなどさまざまな種族が暮らすこの国の治安を守る立場にいる人間だ。
 種族も、当然人間……だった。先程までは、自身を持って主張できたことだが、今は違う。
 俺は治安を乱す存在、魔女を討伐するための調査で森を調べていたが、気がついたらなんと“お茶”になってしまったのだ。
 なぜこうなったのか、それは当然……魔女の仕業に違いない。
 どうして俺をお茶に変えた魔女が、そのまま飲んで始末しなかったのかはわからない。だが、悪辣な魔女のことだ。なにかもっと陰湿なことのために利用しようと企んでいるのだろう。
 お茶に変えられた俺は今、どうやら魔女の屋敷にいるらしい。
 液体状の肉体はポットに保存され、熱は保持されている。
 ポットに入れられてからは外の様子がわからないが、どれだけ時間が経ったことだろうか。家の外から声が聞こえる。

「ごめんくださーい、道に迷ってしまったのですが」

 若い少女の声。それはなんと、俺の妹アリサのものだった。

「おや、こんなところに来客とは珍しいね。今入れてあげるよ」

 屋敷の主である魔女は、しらばっくれるようにアリサを招き入れた。

「すみません、ありがとうございます……依頼で薬草を摘んでいたのですが、そのまま迷ってしまいまして。おかしいなあ、この辺りはもう慣れてると思ったのに」

「それは大変だねえ。もしかしたら魔女の仕業かもしれないよ……それはそうと、薬草の依頼を出したのは私だね。ここで受け取ろうか」

 魔女はあくまでシラを切り続けるつもりだ。あるいは、薬草の依頼というのもアリサをここにおびき寄せるための罠かもしれない。
「そうなんですか? ではよろしくおねがいします」

 そう言ってアリサから渡された袋には大量の薬草が入っていた。
 それを魔女は受け取り、代わりにこのような言葉を口にする。

「ありがとうね。ところで、疲れたなら喉が乾いたんじゃないかい?」

「そういえば、もう喉がカラカラです」

 元々人懐っこい性格のアリサは、既に魔女に心を許してしまっているようだ。

「それじゃあ、薬草のお礼にお茶をごちそうしてあげるよ」

「わあ、ありがとうございます! お茶、大好きなんですよ」

 魔女はポットからお茶をカップに注ぎ入れる。ポットの中のお茶……すなわち俺を。
 そう、魔女の企みとは、騎士団長の俺をその妹自らの手で始末させるというあまりにも残酷な策だった。

(待ってくれ!! このお茶は俺だ! アリサ、飲まないでくれ!!)

 俺は心のなかで叫ぶが、アリサの耳には届かず。アリサは小さな唇をカップに口づけし、中に入れられた俺を飲み干してしまう。
 ごくり。
 アリサの喉は兄である俺を胃へと送り込む。そして彼女は言った。
 美味しい、と。

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