腸内会誌2「オーガニック尿処理」

ときは21世紀も遥か昔となった未来の世界。今、地球上では一つの問題が浮上していた。
それは、大規模な食糧不足である。
その問題を解消するべく世界中で様々な研究が推し進められ、そのうちの一つの計画が今実を結ぼうとしていた。
その計画とは、人体の縮小と排泄物の栄養化である。
スカトロジーの成果により、糞尿に含まれる人体が吸収しきれなかった栄養素を効率よく再吸収することが可能となった、というのが一つの成果だ。これは「糞尿再吸収計画」と呼ばれている。
しかし、自らの大便や小便の栄養素を再吸収できるようになってもその栄養はたかが知れている。
そこで並行して推し進められていた、「人体縮小計画」と複合させることで二つの計画のリスクや欠点をお互いに打ち消し合うというのが今回実を結ぼうとする「オーガニック尿処理計画」である。

「糞尿再吸収計画」と同時に実行される「人体縮小計画」、これは文字通り人間の体を小さくし、生命活動に必要な栄養を最小限に抑えるというものだ。
この計画は単純故に確実な成果を得られるだろうと期待視されており、実際に人間の体を縮める実験にも成功していた。
しかし、現実は甘くなかった。体を縮められた人間は、通常の大きさで生活する人間の日常的な活動すら生命の脅威となったのだ。
道を歩けば黄色い帽子を被った園児にすら踏み潰され、寝ている人間の顔に近づけば吸い込まれて誤飲される……そういった些細なことで死亡する事故が多発したのである。

「人体縮小計画」はこういった大きな欠点を抱えており、半ば凍結されかけていた。しかし、今回の「オーガニック尿処理計画」により「人体縮小計画」は再評価される形となる。
「オーガニック尿処理計画」、それは縮められた人間を通常の大きさの人間の膀胱内に挿入し、膀胱に溜められた尿を体内に取り込んで栄養にするという計画である。
この際膀胱内に縮小人間を挿入する人間側は「糞尿再吸収計画」で開発された薬剤を飲み、尿から栄養を吸収しやすくする状態とするのだ。
人間の膀胱内には、当然ながら尿以外のものは存在しない。つまり、酸素と排尿時にさえ気をつければ縮小人間が死ぬリスクはなくなる、というのが「オーガニック尿処理計画」の概要だ。

これが、今回俺が受ける治験について医師から聞かされた説明であった。
正直話の半分も理解できていないが、大学で一人暮らしを始めてお金に困っていた俺は、1日の間水の中にいるだけで高額の報酬を貰えるという話を聞いてこの治験に参加することを決めたのだ。……まさか、水の中というのが人のおしっこの中だとは想像もできなかったが。
だが、いくら汚い仕事だろうが高額のバイトに違いはない。俺は悩むことなく契約書にサインをした。

「協力ありがとうございます。それでは早速薬を飲んでいただきます。効果はすぐ現れますが、周りの景色に驚かないでくださいね」
「ああ。ここまで来たらなんだってするさ」

そう言って俺は錠剤を飲む。すると、間もなく意識は暗転した。

気がつくと、周囲はそれまでとは全く異なる光景となっていた。
医師と二人きりだった診察室、それが先程まで俺がいた場所だったがここは違う。
足元は純白でまっ平らなフローリングの床。遥か遠くには、ひらひらとした巨大な白い布のようなもの……巨大なカーテンだろうか。それが周囲を覆っていた。
そして、俺自身は衣服がなくなっており全裸となっていた。
事前に体が小さくなる、という話を聞かされていなければこの状況を理解できなかっただろう。だが、これまでの話から察する俺は診察室からもう一人の被験者……つまり、俺を膀胱に入れる人間のいる病室なのだろう。
彼……あるいは彼女がどのような人間なのか顔を拝んでやろう。

俺が被験者の姿を探すと、すぐにその巨大な姿が窺えた。
薄緑色の患者衣を身にまとったその人は、まだ第二次性徴を迎えたばかりと思しきあどけない少女だった。
くりっとした二重の眼に、肩まで伸ばした濡羽色のサラサラした髪。ぷっくりとした小さな口。恐らくまだ13歳と言ったところだろうか。ボディラインが現れにくい患者衣だということを考慮しても、その胸は全く主張をしない慎ましいものであることが予想できる。

「や、やあ。君がこの治験の被験者かな?」

恐らく体の大きさが違いすぎて聴こえないだろうが、苦し紛れにコミュニケーションを試みた。が、その予想はいい意味で外れた。

「わっ……耳元に声が聴こえる。もしかしてもういるの?」

どうやら俺の声は彼女に通じていたようだ。体を探ってみると、いつの間にか耳元にマイクが付けられていた。小さくなっている間、せめて被験者同士でコミュニケーションが取れるようにとの配慮だろうか。観察すると彼女の耳元にもマイクが取り付けられていた。
「あー、俺は黒井健児。今回治験で君の……膀胱に入る人間だ」

「黒井……健児さんですね。私は朝比奈呉羽です」

「呉羽ちゃんだね。その、デリカシーがない質問で悪いんだけど、どうして君はこの治験に参加したのかな? 自分の膀胱に他の人を入れるって、君みたいな女の子だと恥ずかしいと思うんだけど……」

「そう、ですよね。私も恥ずかしいし、まだ実感も湧いてないです。でも、お医者さんが『この治験がうまく行けば君の生活が楽になるかもしれないから』って言っていたので……」

「生活が楽に? それはどういうことかな」

「実は、私は原因不明の病気でおしっこが自分で出せないんです。膀胱におしっこが溜まっても自分の意志で出せないから、普段は薬を飲んだりカテーテルとかを使っておしっこをしてます」

「で、俺みたいな縮小人間におしっこの処理を任せられるようになれば薬の副作用を気にしたり、カテーテルの負担に耐える回数が減らせるってことか」

「そう、らしいです」

呉羽ちゃんはまだ実感が湧いていないのか、どこか夢心地で自分のこともあまり理解できていないようだ。
と、お互いの状況を把握するための会話をしていると担当医が来たようだ。

「コホン。それでは只今より健児さんを呉羽さんの膀胱内に挿入しますがよろしいでしょうか?」

「俺は大丈夫です」

「私も……よろしくおねがいします」

確認もそこそこにすると、呉羽ちゃんは医師の指示に従いながらゆっくりとズボンを脱いでいく。
純白の、赤いリボンが付けられた可愛らしいショーツも脱ぎ去り、呉羽ちゃんは足元に半透明のタッパーのような容器を置きながらベッドに腰掛けている。
そして医師は透明な長い筒を取り出す。カテーテルというやつだろう。

「んっ!」

医師によってその割れ目……まだ薄っすらとしか陰毛が生えていない、ぷっくりとしたクレバスが開かれる。どうやら外部からの刺激で呉羽ちゃんは少しピクリとしたが、医師は気にする様子もなくその作業を続ける。

医師によって広げられた陰唇の内部、膣口のすぐ上にある尿道口にその透明なカテーテルは挿入されていく。
つつつ……と差し込まれていくとやがてその中に薄黄色の黄金水が流れ出していく。
俺が呉羽ちゃんの膀胱内に入るにあたって障害となるであろう、今溜まっている彼女の小水を取り除く作業だ。この作業をせずに直接俺が膀胱に入ろうとしても彼女の排尿で流されていたことだろう。

ショロロロロ……
ちゃぷちゃぷと容器の中を薄黄色い液体が満たし、黄金の湖を形成していく。
そして、少しの間だけ待つと医師は俺に呼びかける。

「さあ、準備はできました。カテーテルは見ての通り、呉羽さんの尿で汚れていますが……よろしいでしょうか?」

「ああまあ……よろしくないこともないけど大丈夫です。どのみちこれからしばらく呉羽ちゃんの膀胱にいるわけですし」

と、彼女の顔を見上げるとやはりというかなんというか、呉羽ちゃんは赤面していた。なんだかんだでやはり男性を自分の膀胱に入れるのは恥ずかしいのだろう。

「では、よろしくおねがいします」

そう言って、医師は俺をカテーテルの中に入れた。
医師によって呉羽ちゃんの尿道に続くよう傾斜が作られたカテーテルは、すべり台のように俺を運んでいく。道中には呉羽ちゃんの黄色い尿が残っており、俺は膀胱に入る前から既に彼女のおしっこまみれになっていた……が、気にしても仕方あるまい。
しばらく傾斜を滑っていくと、床は水平になった。これからは歩いていくわけだが、周囲を見回すとそこは薄桃色の洞窟だった。
僅かに脈打ち、壁の奥からはサーという音が聴こえる。ここは呉羽ちゃんの尿道なのだろう。5歳以上も年下の少女の体内にいることを考えると意味もなくザワザワしてしまう。
呉羽ちゃんの尿道内部を歩きいていくと、広い空間へ出た。周囲の壁はやはり薄桃色。天井は若干窪んでおり、奥の壁には2つの穴があってそこからは黄色い液体が流れてくる。カテーテルの洞窟を出たその床には黄色い水たまりがチラホラと見える。
つまり、ここが治験の目的地で俺が1日の間滞在する場所……呉羽ちゃんの膀胱だ。
気温は暑く、水気だらけのおかげで非常に蒸している。流石は人体。人間の体温の36度をまさに今味わうこととなった。
臭いも日常では嗅ぐことがないほど強烈な、アンモニアの臭い。呉羽ちゃんのような美少女であってもおしっこの臭いは万人に共通するということを証明していた。

「呉羽ちゃん、膀胱に着いたよ」

「あっ、はい! 先生、健児さんが着いたそうです」

呉羽ちゃんは『膀胱に』という言葉を省略しつつ報告した。まあ、年頃の女の子が膀胱膀胱連呼するのもおかしな話だろう。
呉羽ちゃんはそれから、医師にこれからのことを聞いているようだ。

「健児さん、先生から聞いたことを話しますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

「健児さんはこれから、私のおしっこを、その……」

「飲めばいいのかな?」

「そ、そうです! お願いします!」

やはり、男性に対して自分のおしっこを飲め、だなんて言うのは恥ずかしいのだろう。外の世界で呉羽ちゃんが赤面しているのが容易に想像付くが、ともあれ俺は奥の壁……尿管から流れてくる新鮮なおしっこを口につける。

「うん。美味しいよ」

「本当……ですか? おしっこですよ?」

本当だ。尿は汗のように酸っぱい味がすると言うが、彼女のおしっこ確かに酸味があるもののそれはどちらかと言うとミックスジュースのような甘酸っぱさであった。

「本当だよ。多分、君が飲んだ薬のおかげだと思う」

「おしっこを栄養にするっていう薬ですか」

その薬のおかげで、健康にいいミックスジュースの味がするようになったのだろう。不謹慎な気がするが、薬さまさまだ。これなら1日くらいは呉羽ちゃんの膀胱に滞在するのも苦ではないだろう。

それから呉羽ちゃんは医師の指示に従い様々な行動に移る。
尿道にある程度尿が溜まるまでは待ち、俺の腰がおしっこに浸かるという報告をしたら急におしっこの湖が揺れ始める。

「呉羽ちゃん、どうしたんだい!?」

「すみません、先生からおしっこが溜まったら運動するようにって言われて! 倒れたり酔ったりしないでしょうか?」

医師の意図は……なるほど。ちょうど今身に沁みて理解できた。運動をする宿主の膀胱内の環境を確かめるための実験なのだろう。

絶え間なく揺れるおしっこの水面に足を取られ、迫りくるおしっこの波に体は黄金の湖に叩きつけられる。
そうなったら最期、俺の体はおしっこによってシェイクされるのみだが……不思議とその揺れに酔うことはなかった。
これは縮小薬の効能と言ったところだろうか。

「健児さん、大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫じゃないけど大丈夫……おしっこの波で倒れたけど、揺れても酔わないよ」

「そう、ですか。ありがとうございます」

どうやらこれでこの試験は終了のようだ。それから暫くするとまた異変が起きた。膀胱内が急に暑くなったのである。

「呉羽ちゃん、これは?」

「先生にお風呂に入るようにって言われまして……健児さんはどうですか?」

当然だが、暑い。膀胱内部は入浴中の呉羽ちゃんの影響でサウナのように蒸し暑くなっている。
更に、こころなしかおしっこの味も濃くなってきた。呉羽ちゃんが汗をかくことで、おしっこの濃度自体が濃くなっているのだろう。
俺はそのことを伝えた。

「わかりました。先生には伝えておきますね。それで、その……」

「どうしたんだい?」

「あっ、すみません。お風呂、もう上がりますね」

どうやら呉羽ちゃんは俺に気を使ってくれたのだろう。だが、これは彼女の膀胱内の環境テストだ。俺のことを気にする必要などない。

「いや、気にしなくていいよ。呉羽ちゃんは好きなだけお風呂に入ってていいよ」

「すみません、ありがとうございます」

その後はおしっこの濃度は変わらないものの暑さは徐々にもとに戻っていった(と言っても、もともと蒸し暑い空間のため大きな変化はないが)。
そして、俺の体内時計が正しければ就寝の時間だろうか。この日の最後に呉羽ちゃんは報告を入れる。

「健児さん、私はもう寝ますね。おやすみなさい」

「ああ、呉羽ちゃんもおやすみ」

「あっ、寝る前に言わないといけないことがありました! 健児さん、今私の膀胱にはどのくらい、その……おしっこが溜まってますか?」

「ああ、実はもう天井近くまで溜まってるよ」

そう、治験を始めたのは夕食前だが彼女が寝るまでには流石に尿が溜まりきってしまったようだ。

「すみません! おしっこが出そうじゃなかったので気づきませんでした。その……大丈夫でしょうか?」

「立ち泳ぎなら得意だから大丈夫だよ」

「安心しました。でも、もしも苦しくなったら大声で叫んでくださいね。おしっこで窒息しそうになったらすぐに試験は中止にするって先生も言っていましたので」

おしっこで窒息。これがこの「オーガニック尿処理計画」の最後にして最大の課題なのだろう。薬の効果でおしっこ内でも呼吸ができるかどうかを確かめるための試験だ。

「ああ、俺もこればかりは無理しないようにするよ。改めて、おやすみ」

「おやすみなさい」

彼女が寝静まり、イヤホンから寝息が聴こえてくるその間も彼女の腎臓は容赦なくおしっこを膀胱内に送り続ける。
尿管から流れ出すおしっこは膀胱内を徐々に満たしていき、遂には天井まで達してしまった。

ガボガボガボ……
と、俺はおしっこを飲みながらもおしっこの湖を泳ぎ続ける。どうやら試験そのものは成功で、無事おしっこを酸素か何かに変換して呼吸ができるようになったようだ。
安心して泳ぎながら数時間、呉羽ちゃんからしばらくぶりに声がかかる。

「おはようございます、健児さん」

「おはよう、呉羽ちゃん」

「その、そっちは大丈夫でしたか?」

「大丈夫。どうやら俺はおしっこを飲んで呼吸ができるらしい。先生にもそう伝えておいて」

「わかりました。これで試験は終了なので、私はこれからおしっこをしますね」

その言葉を口にすると、湖底に存在する窪みが口を開き透明の筒……カテーテルが侵入してくる。
黄金の水は螺旋を描き、カテーテルの口へと吸い込まれていく。湖を泳いでいる俺も当然それに巻き込まれ、景色は再び尿道の洞窟を高速で映し出していくが、あっという間にそれも終わり……

ショロロロロ……
俺はカテーテルから投げ出され、タッパーのような半透明の容器に放り出される。
頭上を見上げると、そこには膀胱に溜まっていた大量の尿を排尿するべく濃い黄色い小水をゆっくりと排出し続けるカテーテル、そしてそれを掴む呉羽ちゃんの巨大な右手があった。
カテーテルの先にあるのは当然呉羽ちゃんの尿道口と、それを包む陰唇。そしてまだ生え揃わない薄い陰毛の森である。
俺は罪悪感に駆られて顔を背けるが、当の呉羽ちゃん本人は何も言わない。
訝しんで彼女の表情を伺うと、それはどこか幸せそうな恍惚の表情であった。半日ぶりの排尿に、快感を覚えているのかもしれない。
排尿の勢いが落ちてきて、俺の後方に流されていた彼女のおしっこの滝は少しずつ前に移動し、俺の頭に叩きつける。

「あっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。それより、先生を呼んで報告しようか」

「そうですね。今呼びます」

それから、これまでの実験の結果を担当医に報告すると俺は体をもとの大きさに戻し、治験の報酬を貰って帰路に着いた。
治験からしばらくの月日が立つと、どうやら「オーガニック尿処理計画」は改良を行った上で実用化に成功したらしい。
呉羽ちゃんは今回の治験の副産物として、食費を抑えるための縮小人間を利用した尿処理を続ける希望を出しているが、尿処理の相手は俺に限定しているそうだ。
自分の恥ずかしい側面を知るのは最小限に抑えたいのだろう。と思っていたのだが、どうやらそれだけではないらしく……

「健児さん、今日もよろしくおねがいします」

「よろしく、呉羽ちゃん」

「それで、その……お付き合いはまだ駄目でしょうか?」

「流石に5歳以上も年の差があると世間の目がね……」

と、何やら好意を抱いてくれているようだ。
数年後、身長は年相応に伸びたが胸はあまり成長しないことを気にする呉羽ちゃんと正式にお付き合いし始めたがそれはまた別の話。
ただ、好きな人(つまり俺)を自分の膀胱に入れることが癖になったらしい彼女との付き合いはなかなか大変で、他の女性と親しくなりだしたらヤキモチで俺を呉羽ちゃんの膀胱に閉じ込めてくるのが目下の悩みだ。

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