ときは戦国の日本。
乱世を生きるために各国の長たちは積極的に忍者を使用した情報戦を戦っている世界。
そんな時代に俺は、忍者の一流派である「縮身流」の一人として生を受けた。
だが俺は、任務の終わりに単純な失敗を冒してしまい敵対する忍者に追われてしまった……
「くっ、俺としたことが領内での活動を敵国のくのいちに悟られるとは……!」
敵国を出て草原を駆け、鬱蒼とした森も立ち止まらず走り抜ける。
だが、向こうの忍者も女性ながら体力自慢らしく俺の追跡を諦める様子はない。
しかし、走り続ける俺にも仏の加護が与えられたのだろうか。追手から身を隠せそうな大きな里へと辿り着いた。
「ここは……俺の国の里か。ちょうどいい、民家を借りてやり過ごさせてもらおう」
誰にも聴こえないようにそう呟き、手頃な家を借りに伺った。
「御免。俺は旅をしている者だ。もしよろしければ今宵の宿として泊めていただきたいのだがよろしいだろうか?」
突然の来客を出迎えてくれたのは、うら若い女性であった。
客の立場で品定めをするのは品のない行為であるが、年の頃は俺と同じ一七だろうか。素朴な顔つきであるが可愛らしさが出ており、黒い後ろ髪を高い位置で結って纏めた、健康そうな女性であった。
「旅の方、ですが。父はまだ帰ってきていないですが、きっと許してくれるでしょう。うちでよろしければ旅の疲れを癒やしていってください」
「ありがたい。貴方の優しさに誓って、決して不埒な働きはしないと約束しましょう」
俺は許しを得ると急いで、しかし怪しまれないように彼女の家に入った。
それから僅かな時が過ぎると、外はなにやら騒がしくなっている。敵国のくのいちが俺を探しているのだろう。
耳を澄ますと、彼女はただ話を聞いて回るだけではなく、民家を一軒一軒回って探しているらしい。
まずい、このままではこの家に隠れていても見つかるのは時間の問題だ。
「騒がしいですね……一体何があったのでしょうか?」
表の騒ぎに彼女――おたえというらしい――は訝しんでいる。幸いこちらに興味は向いていないようだ。
「オン・スクナ・ソワカ!」
小声で呪文を口にし、印を結ぶ。
すると、ちゃぶ台の足は大黒柱のように巨大になり、先程までは俺の肩にも届かなかったおたえもみるみるうちに巨人へと変貌していく。
成功だ。これこそが我が「縮身流」に伝わる秘術忍法「人遁」だ。
人遁とは名前の通り人に隠れる術なのだが、ただ人混みに隠れるだけではない。術者の体を小さくし、他者の体に隠れてこその人遁である。
先程「不埒な働きはしない」と誓って早々申し訳ないが、背に腹は変えられない。ここはおたえの体に隠れさせていただこう。
「あら、旅の人はどこかしら……?」
おたえは急に消えた俺の姿を探している。俺はそんな彼女の足元にいるのだが、まさか人が突然小さくなるだなどと考えもしていないだろう。
俺は里で鍛え上げられた登攀術を用いて彼女の白い足を登っていく。
身の丈十厘(3ミリメートル)ほどの大きさとなった俺は、たとえがっしりと彼女の足を掴んでも気づかれることはない。
するするとおたえの足を登っていくと、やがて足の付け根へと辿り着いた。
ここはいわゆる女性の秘部といったところだろうか。肌の各部から、黒く長い巨大な柱が薄暗い森のように鬱蒼と生い茂っている。
おたえは自分はまだ嫁入りには早いと思っているのだろうか、あるいは世間の流行だろうか。彼女は自分の陰毛をあまり手入れしていないように見える。
しかし、陰毛が密集しているなら都合はいい。俺は陰毛にしがみついて三角地帯へと近づいていく。
陰毛の柱を頼りに渡っていくと、強烈な尿の臭いが漂う場所へと辿り着いた。ここがおたえの陰唇か……
ぷっくりと盛り上がった大陰唇は彼女の尿道口を覆い隠しているが、それでも尿の臭いは強く漂っている。
ともあれ、その尿の臭いの源泉こそが俺の隠れ家となる場所だ。躊躇はしていられまい。
俺は極小の体を利用してきっちりと閉ざされた大陰唇をするりと抜けていく。だが、その内部は膣の臭いと尿の臭いが混ざっている鼻の曲がるような悪臭の漂う、まるでこの世の地獄のような場所であった。
おたえはいわゆる美少女のようであったが、彼女は排泄の後処理が雑なのだろうか。あるいはどのような人であっても尿道口付近となるとここまでの悪臭を纏って然るべきなのだろうか。
躊躇はする。だが時間は待ってくれない。俺は意を決して尿道の内部へと入り込む。
「んっ、なにかしら……おしっこの穴がむず痒いわ」
俺の侵入が僅かなとなってしまったのだろう。おたえは違和感を覚えてしまったようだ。
薄桃色の肉壁で包まれた尿道は、外以上に強い尿の臭いに包まれていた。もはや鼻は曲がり切り嗅覚など失われていたと思っていたがそれは杞憂であったのか、あるいはさらなる不幸か……俺は尿の臭いを嗅ぎ続けながらも奥へ奥へと歩み続ける。ただ、追手のくのいちに万が一にも見つからないように。
最奥の内尿道口がある場所まで辿り着くとようやく一心地つく。流石にここにいればくのいちも俺を見つけることはないだろう。
と、ちょうどその時。追手のくのいちの声が聞こえてくる。
「おい、ここに不審な男性がやってこなかったか」
「不審な男性? 旅の人ならいらしましたが……」
おたえはあまりにもあっさりと口にしてしまった。当然だろう。特に接点のない旅のものなど匿う理由もない。
「そうか。悪いが家の中を調べさせてもらう」
ガツガツと、家の中が調べられる音が聞こえてくる。だが、俺は心配などしていない。なぜなら、俺が隠れている場所はおたえの体の中だからだ。
「……見つからないな」
「そう、ですか。実はついさっきまではいたのですがいつの間にか姿を消していて……」
「なるほど、わかった。おい、ちょっと衣服を脱いでくれないか」
くのいちはおたえに服を脱がせようとする。
「と、突然なんですか! 昼間からご禁制ですよ!!」
「違う。その度の者は怪しい妖術を使っているかもしれないのだ」
「妖術、ですか?」
「実は、私が追っているのはとある忍びの者なのだが、やつの里では自分の体を縮める術を使うというのだ」
「それで、私の服に忍び込んでいると……」
「理解が早くて助かる。済まないが協力をしてくれ」
「そういうことなら……恥ずかしいので早くしてくださいね」
というと、体外から衣擦れの音が聞こえてくる。スルスルと着物を脱いでいるようだ。
「……服の中には、いないようだな」
「じゃあ、どこでしょうか?」
「おたえと言ったか。済まないが股を広げてくれないか」
「股!? それは流石に……」
「文句は後でいくらでも聞く。済まないがそちらが拒むなら力ずくと行かせてもらおう」
「きゃっ!?」
外の様子だと、どうやらくのいちは力ずくでおたえの股をこじ開けているらしい。
「そ、そこは駄目です! あ、あんっ!」
「……膣にもいない? あの里の男性は非常時には女性の膣に隠れる、というかそれ以上に安全な隠れ家はないとされているようだが」
どうやら、膣を探られることを恐れて尿道に隠れたのは正解らしい。この悪臭の分だけ助かった、と思っておこう。
「なら、こっちだろうか」
安心したのもつかの間、くのいちはどうやら尿道を調べようとしている。不味い、このままでは見つかる!
俺は急いで「壁抜けの術」という忍法を使用して内尿道口をすり抜ける。
ザパン、と音を立てて黄金の湖の中へと俺は入り込んだ。
まさか膀胱の中にまで隠れなければいけないとは思わなかったが、ここなら安心だろう。
だが、秘術とされる忍法の連続使用で俺の精力はなくなってしまった。もはやここを出るにはおたえの排尿を利用するしかあるまい。
俺は湖を泳いでなんとか小水の湖面へと顔を出すことができた。
尿の源泉なだけあり、臭いはこれまで以上。更に壁にある二つの尿管からは少しずつ尿が腎臓から送り込まれており、湖面は水位を上げていく。
加えて膀胱内の温度は灼熱を思わせるほどの暑さ。もしも彼女が排尿を我慢し続けるのならば、俺は尿によって溺れるかあるいは熱気で衰弱死するだろう。
だが、困難のかいあってかくのいちは諦めてくれたようだ。
「……すまない、まさか本当にどこにもいないとは思わなかった」
「もう、いいですよっ! 恥ずかしいので早くどこかへ行ってください!」
外からはくのいちの気配が消えた。だが、違和感がある。
おたえはくのいちが去った後も衣服を着る様子がない。
「……お腹が冷たわ。厠に向かいましょうか」
なるほど、彼女は用を足しに行きたいのか。これなら脱出も早そうだ。
とつとつと、廊下を歩く音や振動から確かに彼女は厠に向かっているようだ。
そして、膀胱の湖底は突如口を開き、黄金水が螺旋を描いて吸い込まれていく。
俺の体もこの螺旋に身を任せ、体外へと排泄されていく。周囲の光景は一瞬だけ桃色の肉壁でできた洞窟、そして鬱蒼とした黒い柱の森林の景色を映し出した後に俺の体をどこかへと叩きつける。
「うっ、この臭いは……」
もはや悪臭など気にすることもないと思っていたが、膀胱内と比べても酷い場所であった。
彼女は厠へ行くと行っていた。つまり、周囲にあるのはこの家のものがこれまで排泄してきた糞尿なのだろう。その溜まりに溜まった臭いが俺の鼻を襲っている。
更に、悪いことは立て続けに起きた。
ジョロロロロ……
という音を立てて、頭上から黄金の滝が俺の体に降り注いでいるが、それはもはや不幸のうちには含まれないほどの悪夢が、これから俺を襲おうとしている。
ギュルルルル……
そう、この異音は……
「お腹が冷えちゃったわ。このまま大きい方もしちゃいましょうか」
頭上では、二つの山が逆さにそびえ立っておりその狭間には小さな穴が……
否、その穴は徐々に口を開き始めている。
そして……
ギュー、ブリュリュリュリュ……
俺の体には、おたえの体に溜まっていた水気の多い不浄なる下痢便が降り注ぐ。
「うっ、卵が腐ったような臭いがするな……もしかして風邪だったのか?」
不快な臭いと粘りに顔をしかめるが、安心するのはまだ早かったようだ。
ミチ……ミチ……ミチ……
天井には茶色いものがへばりついた白い肌。そしてその中心からは太く長い、茶色い巨塔がミリミリと音を立てて垂れ下がってくる。
「これは……命運が尽きたということか」
やがてその巨塔……おたえの大便はブチリと切れ、落下する。
周囲を壁と糞尿の山で覆われた俺はそれから逃れるはなく、無力な町娘の大便に潰される形で人生の幕を閉じた。