俺は今、とある神社に参拝に来ていた。
その神社は普通の神社なのだが、俺にとっては普通ではない……否、俺にとってはもはや全てが普通ではないのだ。
石畳は一枚一枚が、地平線まで見通すことすらできないほど広大な大地となっており、尋常な手段では目的地に辿り着くことすらできない。
現に今も幼馴染の多田野花蓮に連れられてようやくここまで来れたのだ。
今の俺は、身長がおよそ1mm程度しかない小人となっていた。
きっかけは非常にオカルトなもので、夢で聞かされたお告げ? のようなものを無視していたらバチが当たってしまったのだろうか。ともかく気がついたらこのような姿となっていたのだ。
たまたま近くにいた多田野に助けてもらい、噂で聞いた「呪いを解く神社」へやってきたのだが、この神社の責任者の姿は意外なものであった。
「あ、あの……当神社になにか御用でしょうか?」
愛らしい姿をした、紅白の巫女服を着た少女……顔立ちから推測するに恐らく12歳ほどだろうか。
彼女はおどおどした様子で応対に出た。
「ええ。ちょっとこの神社は呪いを解いてくれるって聞いたから助けてもらいに来たの」
意思疎通が困難な俺に代わって多田野が目的を告げる。
「それでしたら、私が対応させていただきます。……よろしいでしょうか?」
「えっ、貴方が? ……失礼だけど、親御さんはいないの?」
「すみません。母は別のところに勤めてまして。……この神社は私が預からせていただいているのです」
まさか、この少女が神社の主なのか。
いささか不安が湧いてきたが、もはやここ以外に頼るすべを知らない俺たちはこのままこの少女に運命を委ねるしかなかった。
「……わかりました。貴方に事情を話しましょう。実は私が今連れている男性……佐藤孝夫っていう人がなにかに呪われたらしいの」
「呪い……それで、その方は今どちらへいるのでしょうか?」
少女はゴクリとつばを飲み、しかし呪われたという張本人が姿を見せないことを怪訝に思ったようだ。
「ああ、孝夫ならここに……私の肩に乗ってるわ」
「肩……?」
「孝夫はね、なんだかよくわからない祟りとやらで身長が1mmまで小さくなっちゃったの」
「1mm!? それは……」
「うん。それですごく困ったことになっちゃったから貴方に助けてもらいたいんだけど……できるかしら?」
少女は俺の事情を伝えられてしばし思い悩み、それでも答えを出してくれた。
「わかりました。大丈夫……だと思います。ただ、その……」
「その?」
「孝夫さんはある意味では、死んでしまう。そんな治し方になってしまうのですが大丈夫でしょうか?」
死ぬ!? それじゃ本末転倒だ。
「それ、どういうことなの?」
多田野も同じことを思ったのか、問いただす。
「孝夫さんは元の身長に戻りますし、意識もちゃんとしっかりしてるのですが……流石に身長1mmですと従来の解呪法ができないので、別の方法で呪いを解こうと思うのです」
「別の方法……? 従来の、っていうのもわからないけど教えてくれる?」
「はい。本来は、私が呪われた方とその……まぐわうことで縁を結び、呪いの道をかき乱して呪いを解いているのです。しかし、身長1mmですとこの手段が使えません」
「まぐわう……」
あまりにも予想外の方法に、俺も呆気に取られたが話はそれで終わらないようだ。
「この方法ですと、今の孝夫さんの体では私の膣圧に耐えきれないと思うのです。ですから、別の方法を取らせていただこうと思います」
「そ、それで別の方法って?」
「産み直し、です」
「産み直し……?」
「孝夫さんの体を私の卵子に取り込み、私の子供として新しく産むという方法です。これなら新しい孝夫さんの体は一般的な人間と変わらず、呪いも完全になかったことにできます」
「で、でもそれって!」
「はい。今の孝夫さんは肉体的にも社会的にも死んでしまいます」
「……」
多田野は沈黙する。この手段では俺が死を迎えてしまうも同義だから、素直に受け止められないようだ。
だが、このままの体で過ごしても生きているとは言えない。
「……頼む、その方法で俺を産み直してくれ」
「孝夫!?」
「多田野、俺の代わりに悩んでくれてありがとう。でも、多分これ以上の手段はないから。これでいいんだ」
「……わかった」
後は、何も語ることはなかった。
解呪の儀式は神聖で、俺と巫女……渋谷志津ちゃんのみが神社の奥へと場所を移した。
「心の準備はよろしいでしょうか?」
社の床へと降ろされた俺の目の前には巨大な緋色のカーテンが幕を降ろしている。
幼い少女の履いている袴ですら、今の俺には巨大な天幕と等しいのだ。
「ああ、いつでもいい。……よろしく頼む」
挨拶も済ませると、志津ちゃんは帯を解いて袴を脱いでいく。
ドサリ、と袴が床に落とされる大きな音がするがこれも彼女にとってはせいぜい「パサリ」といったとこなのだろう。
視界を天に向けると、そこには陶磁のような滑らかな柱がそびえ立っていた。
巨大な柱の上方を更に見上げると柱と柱は一箇所で交わり、逆三角を覆うように白い布が被せられていた。
と、仰々しい表現をしてみたところでこれは脚、そしてショーツ。志津ちゃんが履いている女性ものの下着でしかない。
片足を上げ、丁寧に桃色のリボンが付けられたショーツを脱いでいく。
彼女が脚を降ろした衝撃でドスン、と床が大きく揺れ俺は腰を抜かす。……志津ちゃんは小柄な少女だが、そんな彼女の何気ない行動ですら俺にはどうしようもないものであった。
「……私も、準備ができました」
ショーツを脱いだ志津ちゃんは、床に腰を降ろし女の子座りで俺と向かい合う。
今、俺の目の前にはまばらにそびえ立つ漆黒の巨塔に覆われた薄桃色の縦クレバスの洞窟が広がっている。
あどけない顔だが、その体から生えて大陰唇を守る陰毛はしっかりと大人への道を歩み始めていることを証明していた。
「さあ、私の中にいらしてください」
志津ちゃんのその表情は将来の出産に対する不安からか頼りなく……しかし、どこか蠱惑的なものだった。
彼女は股間の洞窟を小さな……しかし今の俺からすれば巨大な両手で広げ、俺を招き入れる。
俺も彼女に応じてその洞窟に足を踏み入れる。……が、失礼な感想を抱くと正直ここは到底人が存在できるような空間ではなかった。
陰唇の外から漏れ出る光から、かろうじて桃色の肉壁で覆われているとわかる程度に薄暗いこの洞窟は、あまりにも女性の匂いで包まれていたのだ。
志津ちゃんの陰唇の中は尿、おりもの、女性ホルモン、経血……その他様々な液体や分泌物によって彼女という女性を持て余すほどに表現している。
ドクンドクンと脈打つ心臓の鼓動が、ここが神秘的な女性の体内であるとなおさらに訴えかける。正直、不謹慎ながら俺は耐えられずにはいられなかった。
「(志津ちゃん……済まない!)」
……心のなかで謝罪し、膣の中に出してしまうと俺は再び歩き出す。俺のような小人が膣の中に出してしまおうと、それは些細な塵にも満たないだろう。そんな打算はあるが、幼い体の志津ちゃんに対して欲情を抱いてしまった罪悪感は拭えない。
いつの間にか処女膜らしき薄い膜へと辿り着いていた。破れていないそれを見るに、「まぐわって」呪いを解くなどと言っていたが実際のところ彼女はまだ未経験であったのだろう。
もっとも、俺のような体であれば処女膜は破れることなくその侵入を許してくれる。
膣の中はこれまで以上に志津ちゃんの匂いで充満しており、幾度となく俺は足を止められた。
だが、歩いては足を止める工程を繰り返しているとやがて終点へと辿り着く。
子宮頚部。膣の洞窟と子宮を繋ぐ穴をくぐり抜けるとようやく目的地へと入り込むことができた。
本来なら子宮内部は白血球により精子の侵入も許さないのだと聞くが、そこは巫女の不思議な術か。俺は彼女の体に認められ、難なく子宮内に漂う卵子のもとへと辿り着いた。
これも本来なら生理のタイミングと一致しないとならないのだが、巫女の術かたまたまか……ともあれ都合よく俺は卵子と対面できた。
そして、卵子と接触すると俺の体はそれに取り込まれ、意識もやがて手放すこととなる……
一体、どれほどの時が経ったのだろうか。俺の意識は暖かな水の中を揺蕩っていた。
へそを通して送られてくる栄養は、志津ちゃん……もはや俺の新たな母となった彼女の愛情を感じることができた。
人の子供が産まれるのは十月十日と言われる。つまり、俺もあれからそのくらい時間が経ったのだろう。
俺の体を包み込む胎盤は窮屈で、狭苦しく。そしてそれは徐々に膣の道を通って外に排出され……
「ん、あああああ!!」
遂に、俺は志津ちゃんを母とした新たな子供として産まれ直した。