Skebにてリクエスト頂いた作品です!
某歌い手系VTuberのazkさんに気づかれないまま食べられる、というリクエストでした
今回はSkebのリクエスト作品ということで、ファンクラブ会員の方であればどなたでも読むことができます。
リクエストありがとうございました!
Skebのユーザーページはこちらとなります。
https://skeb.jp/@shrinker10pyo
「ふう、今日も疲れたな」
毎日のように、日付が変わる直前で家路につく生活の繰り返し。働けど働けど暮らしは良くならない、俺はいわゆるワーキング・プアという問題に直面している。
しかし、そんな俺でも日々の疲れを癒やしてくれる“天使”がいる。
「はあ、なんとか配信には間に合ってくれて良かったよ」
歌い手。あるいは現代なら二次元風キャラクターのアバターを被ってVtuberを名乗る人も珍しくはない。
流れ星とともに宇宙からやってきたという赤毛お団子ヘアのVtuberは、俺が会社から持ち帰るストレスを取り去ってくれる。空から来た、という意味ではまさに天使とも呼べるだろう。
画面に動画配信サイトを映すPCからは、心と体の疲れを癒やす歌声が響き渡ってくる。
「ああ、まさに天使の歌声だなあ」
天使の翼があるわけでもないし、輪っかもない。ビジュアル的には赤い髪の毛が印象的で天使の要素はない。しかし、俺にとって彼女は天使に違いない。できることなら、もっと近い場所……ライブ会場のようなところで彼女の歌を聴いてみたい。だが、それは叶わぬ夢。
彼女はあくまでバーチャルな存在で、リアルでのイベントは無理があるからだ。
無念を抱きながら睡眠の支度をする。せめて、明日は今日よりもいい1日が送れることを祈りながら……。
窓のカーテンを閉めようとしたそのとき、空にキラリと一筋の光が走る。
流れ星。その一瞬の間に願いを込めれば、それが叶う言い伝え。そして、俺の天使も流れ星でやってきたという。
「縁起のいい話だな。彼女の歌を生で聴くことができれば、もっと素晴らしいんだけれどな」
ささやかな願いを込めて、俺は意識を闇に落とした。
「わあ、美味しそうなラーメン!」
はじめに聞こえたのは少女の声。それはどこかで聞いたような、可愛らしいものだった。
次に感じたのは、熱。熱い。暑いというよりもこれは熱さ。灼熱の五右衛門風呂に入れられ、釜茹でにされているかのような地獄の熱気を浴びていた。
そこまで来て、ようやく視界が開けてきた。とはいっても、辺り一面白いモヤの中で周囲の様子はまったく伺えないのだが……。
かろうじて見えるのは、俺は今茶色いお湯のような液体に浮かんでいて、周りには黄色く太いロープが無数に揺蕩っているということ。
先程聞こえた声の主は姿を見せない。上の方から聞こえたのはわかるのだが。
そして、この匂いは……ラーメン?
試しにお湯を飲んでみると、醤油スープの味がした。
「熱いなあ」
再び聞こえる少女の声。やはり、聞き覚えがある。だが、状況を理解する前に事態は動きだす。
「ふう、ふう」
上空から、強い風が吹く。周囲を包み込んでいたモヤはその風で晴れていくが、新たに見えた世界は衝撃のものだった。
「配信の前に腹ごしらえしないとねえ」
天使……。
正しくは天使ではない、異星人だ。だが、たしかに俺が憧れていたVtuberはそこに、しっかりとした現実感を持って存在していた。
ただし、巨大な姿で。
上空を見上げると、そこには異星人Vtuberの巨大な顔が一面に広がっている。
そういえば彼女ははじめになにを言っていただろうか?
たしか“美味しそうなラーメン”。そう、言っていた気がする。
事実、このお湯から漂う匂いはラーメンのもので、お湯の味も醤油スープ。
仮にこの現実が真実なら、俺は小さくなって醤油ラーメンに浮かんでいることになる。
そして、彼女は俺の存在には気づいていないようにも見える。このままでは……食べられる!?
「お、おーい! 待ってくれ!! 中に人がいるんだ!!」
「ふう、ふう」
叫ぶが、こちらの声に気づく様子はない。少女の口から注がれる突風が、醤油スープの湖面に波を立てるのみだ。
「いただきまあす!」
待って!
言葉を口に出し切ることもできず、少女の姿をした異星人は巨大な箸で俺をさらっていく。無論、彼女の本命は俺ではなく、一緒に掴まれている巨大なロープ……麺だろう。
しかし、俺は麺の“ついで”で食べられてしまうのだ。
「あーん」
少女は大きく口を開け、俺と麺をつまんだ箸を中に入れる。そして、落とす。
後ろを見ると、ついに口は閉じられてしまった。こうなるともう、外に出ることはできない。
口内は不思議と自然光に照らされているかのように見渡すことができるが、これでわかるのは絶望だけだ。
周りは俺と一緒に運ばれてきた巨大な麺。遠くを見ても、綺麗に磨かれた大理石のような巨大な臼と刃……すなわち、歯。
また別の方向を見ると、真紅のサンドバッグが天井から吊るされている様子がうかがえる。あれは彼女ののどちんこだろう。
俺を乗せた真紅の大蛇がうねり始める。咀嚼をしようとしているのだ。
「うわああ!!」
俺は必死になって歯から遠ざかろうともがくが、舌の動きと唾に足を絡め取られ、思うように動くことができない。
ガシャン!
背後から聞こえるシャッター音に振り向くと、そこでは俺と一緒に運ばれていた麺が真っ二つに切断されていた。そして、歯はそのままスライドし、麺を粉々に砕いていく。
その後も、口内に残るすべての麺を咀嚼しようと彼女はひたすらに口を動かす。
今も俺の存在には気づいていないようで、偶然に巻き込まれない限りは咀嚼されることはなさそうだ。
だが、幾度も身体を擦り付ける生暖かい舌。それの持ち主は今でも憧れなことに変わりはなく。だからこそ、そんな少女に弄ばれ、命を握られているこの状況にどこか興奮してしまっている自分がいた。
「うっ、うっ、うぅ……っ!」
擦られる全身。唾液をまとった舌はぬめりを帯びていて、そんなものに局部を擦られると、どうしても果ててしまう!
「やって、しまった……」
憧れの少女。歌い手として喉を大切にする彼女の口の中に、己の精を放ってしまう。今も命の危機が迫っているにも関わらず、罪悪感を覚えてしまう。
しかし、俺が彼女に罪悪感を覚えようと、向こうはこちらを意識すらしていない。精が放たれても、味が変わったという認識すらしてくれないのだろう。
そして、向こうがこちらの存在を認知していないのであれば、俺の運命も変わるはずがなく。俺は勝手に果てているうちに、喉の奥へと運び込まれていた。
喉を下ればそこは奈落の底。地獄の釜。強い酸性で食べ物を溶かす、胃袋。
異星人である彼女が人間と同じ構造をしているのかはわからないが、外見が人間とうり二つである以上は“実は消化器官を持っていませんでした”などという偶然には期待できない。
俺の身体は蠕動運動によって下っていく。まるで口の中にあるもう一つの口にも似た声帯。彼女の最大の武器を素通りしてたどり着いてしまった場所が、食べ物の終着地点。胃袋。
空っぽの胃袋は縮んでいて、綺麗なピンク色の壁が多数のひだに覆われている様子が見て取れた。
俺が胃袋に入ってもすぐには消化活動が始まらない。しかし、出る手段を考える余裕もない。
なぜなら、噴門は次から次へと彼女が食べたラーメン、その具、そしてスープを胃袋に送り込んでくるからだ。
「~♪」
胃袋の外からは、彼女のご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。極楽気分なのだろう。
しかし、こちらは地獄絵図。
噴門から流れ込んでくる食べ物の残骸やスープの洪水に、俺は息をするのもいっぱいいっぱいだ。
「くそ、なんとか出ないと……!」
焦る俺に対する胃袋の答えは無情だった。
スープの海を揺蕩っていると、次第にピリリと身体がしびれ始める。
「痛っ!」
胃壁から消化液が滲み出てきたのだ。
「くそぉ! 出して、出してくれ!!」
ドンドンと、がむしゃらになって胃壁を叩く。当然、胃壁からは今も胃液が絶えず滲み出ているため叩く度に手が痛む。
だが、そんな必死の行動に対する返事は鼻歌でしかなかった。
やがて胃袋はぐねぐねと空間を揺らし、胃壁は圧迫と開放を繰り返す。蠕動運動が始まったのだ。
消化液で柔らかくなった食べ物を、粉々に砕いてしまう行動。
「もう、駄目なのか……」
俺が完全に諦めたその時、胃袋の外から歌声が聞こえてくる。
先程までのような、鼻歌ではないはっきりとした歌詞のある歌声。
それは、俺が好きだった天使のような異星人の歌。
「そういえば、今日もあの子の配信だっけ……」
ここは、あの配信者の胃の中。つまり、俺はこれからあの子に吸収され、栄養となって生きていくんだ。
だから、この歌は俺への鎮魂歌。たとえ彼女自身にその意志がなかったとしても、俺はそれだけで報われた気分になる。
鎮魂歌を誰よりも近い特等席で聴こえるのなら……。
「そう考えると、意外と悪くないのかな……」
そうして、すっかり胃液でもろくなった俺の肉体は、胃壁によって完全にすり潰された。
流れ星に願いを込めたら、身体が小さくなってラーメンに混ざっていた。
そんな馬鹿げた現象は、どうやら夢ではなかったらしい。
俺……もはや肉体もなく、栄養素の意識として生きることになった俺は今、トンネルの中を真紅の液体に乗って流れていた。
ラーメンと一緒に食べられた俺は、そのまま胃袋の中で粉々にすり潰され、十二指腸で栄養を吸収されたようだ。
そして、今は彼女の血管の中で運ばれるべき臓器を探して揺蕩っている。
心臓……全身に酸素と血液を送る最も重要なポンプ。しかし、俺はここで動脈に向けて勢いよく送り出された。どうやら、ここではないようだ。
胃……口から送り込まれた食べ物を溶かし、砕いて小腸で吸収できるようにする臓器。そして、俺を直接砕いてしまった場所だ。複雑な思いがあるが、ここでもないらしい。
腎臓……使われなくなった栄養をおしっこに変え、膀胱に尿を送り込む臓器。俺はここで使われるわけでも、まだ不要になったわけでもないようだ。
そして巡り巡った先が、肺。
口や鼻から取り込んだ酸素を溜め込み、血液に載せて全身に巡らせる重要な臓器だ。
そして、歌い手である彼女にとっては一般の人よりも更に重要度は高いだろう。
だから栄養となった今、彼女の歌手生活を支える役割を担うことができてなんだか誇らしく思えた。
空間が広がる。身体の主である少女が、息をして空気を体内に取り込んだのだ。
俺は肺の一部として働き、その酸素を肺に留める。
空間が縮む。身体で不要になった二酸化炭素を体外に送り込むために、圧迫された感覚を覚える。
歌い手の配信者である少女に食べられてから、俺の毎日はこれの繰り返しだ。
毎日が同じ行動を繰り返すだけだが、退屈だとは思わない。
なぜなら、今の俺にとってはこれこそが生きるすべてだからだ。
それに、ご褒美とも言えるようなものだってある。
「La~Lala~♪」
肺全体が震え、歌唱のリズムに合わせて空気の取り込みと放出が忙しくなる。
日常の中でもハードな作業だが、これこそが今の俺には最大の歓びだ。
歌い手配信者の彼女は日常の行動として歌を歌う。
人間として生きていた頃、彼女の大ファンだった俺にとって、彼女の肺として一緒に歌に参加するのは考えることもできないことだっただろう。
それに、歌い手と文字通り一心同体になって歌うなど他の誰もできない唯一の経験ではないか。
だから、これでいいのだ。
既に死んでしまった身ではあるが、こうして彼女に貢献できるのなら本望と言えるだろう。
そうして、今日も彼女は歌を終える。
肺の活動も緩やかになったその時、突然俺の意識は肺から解き放たれた。
栄養として肺にたどり着いたときと同じように、今度は肺から血管に移されて、どこかへと巡っていく。
次に送り込まれた場所は、腎臓だった。
(ああ、これでお別れなんだな)
腎臓は使われなくなった栄養を尿に変える場所。そして、俺は既に肺で使われた栄養だ。つまり、そういうことなのだろう。
腎臓は、肺で彼女を支えた俺を歓迎するかのように、血管から俺を取り込んでくる。
そして、俺の意識は栄養だった頃から更に細かく分解され、黄色の液体を新たな身体に変えていた。
黄色の液体。つまり、おしっこになってしまった俺はそのまま尿管という細い管を伝って膀胱へと運び込まれる。
膀胱の中はまだ空っぽのようで、周囲を見渡すとそこは薄桃色の壁がドームのように膨らんだ形になっていることがわかる。
壁には多数のひだができていて。これで少しでも多くのおしっこを溜め込めるようになっているのだろうと想像できた。
俺を運んだ管からは、少しずつだが黄色い液体がコポコポとこの空間に流れ込んでくる。
俺と同じように、彼女の身体を動かす上でもう使われなくなった古い栄養の成れの果てだろう。
俺の人生は、彼女に排泄されたら本当に終わりだと思う。だから、最後の最後まで観察を続けたい。
そう思って、空間がおしっこで満ちるまで観察していると、どうやら彼女のおしっこは全体的に濃い黄色だとわかった。
普段の水分は、歌うことでかいた汗に取られてしまっているのだろう。だから、塩分がおしっこに濃く混ざって濃度が増しているんじゃないか、まあ、俺の勝手な想像なのだが。
管から流れ込むおしっこで膀胱がいっぱいになってくると、ドームは空間を拡大させていく。すぐには溢れ出さないように、筋肉が広がって空間が膨張しているのだ。
「ううっ、おしっこしなきゃ漏れちゃうよ」
膀胱の外からは身体の主である少女が声を漏らしていた。どうやら、お別れのときは間もなくらしい。
彼女が歩く度に膀胱内に作り上げられた黄金色の湖は揺れ、そしてそれは彼女が座るトスンという音とともに止んだ。
膀胱の底に、穴が開く。穴は膀胱内のおしっこを外へと一気に放出しようとし、湖は大きな渦を作り上げる。
俺も当然それに巻き込まれる形で、彼女の体外へと放出されていく。
細く短い尿道を抜け、出ていった先は久しぶりの体外。
ジョロロロロ……。
尿道口から出る瞬間。液状の身体が一瞬赤い毛に絡め取られながらも俺は透明な水面へと着水した。
白い陶器の巨大な壁で覆われたこの空間には今も上空から黄金の滝が降り注いでくるが、それも次第にポツリポツリとした水滴に落ち着く。
「ふう、すっきりしたー」
配信者の少女は一瞬、陶器の中を除くが俺には気づかない。まあ、既に元の肉体は失われ、彼女自身が出したおしっこになっているのだから気づくほうがおかしいわけだが。
まあ、結局彼女は最後まで俺には気づかなかったわけだが、責めることもできないだろう。
「それじゃ、今日も頑張ろうっと!」
そう言うと、少女はトイレのレバーをひねり水を流した。
俺はトイレから流れる水で、意識ともども完全にそこから消えてしまった。